課税の効果と「ねじれ」
課税という手段は、公衆衛生の改善に用いられ、たばこ税の増税は、実際にたばこの消費量と喫煙率を低下させる明確な効果を上げてきた。例えば、2018年から21年にかけての増税では、紙巻たばこの販売量が36%も減少した。しかし、その効果は万能ではなく、ニコチン依存度の高い喫煙者を禁煙させるまでには至らなかった。
また、日本のたばこ税収が過去30年以上も約2兆円で安定するように調整されてきた事実は、健康対策よりも、税収の安定が、国策として優先されたことを示唆している。課税目的の明確化が求められる。
酒税はさらに複雑な問題を抱えている。ビールの税金は高く、チューハイは比較的安いなど、酒の種類によって税率に差がある。このため、消費者がより安価な、しかしアルコール度数が高く健康リスクの大きい製品に流れやすい構造的な問題を抱えている(「アサヒの「ストロング系」撤退で人々の飲酒は変わるか?チューハイのアルコール度数と飲みやすさと価格が生んだ深刻な問題」)。
さらに、国税庁が若者向けの飲酒促進キャンペーン「サケビバ!」を実施するなど、健康被害の抑制を目指すWHO勧告との「ねじれ」が生じている。税収のための増税ではなく、公衆衛生のための増税が求められる。
世界が示す「賢い加糖飲料課税」
WHOの推奨を受け、加糖飲料税は世界的に急速に普及し、22年時点で、少なくとも108カ国が加糖飲料への物品税を導入している。しかし、その制度設計は国によって大きく異なり、その結果、目覚ましい成果を上げている国と、そうではない国がある。その要因は、政策が供給側(製造業者)と需要側(消費者)のどちらに働きかけるように設計されたのか、そしてその設計が各国の社会経済状況と適合していたのかにある。
英国の清涼飲料産業税は、製造業者の行動変容に主眼を置いた「障壁型」課税の成功例である。砂糖含有量が100ミリリットル(㎖)当り5グラム(g)を超えると、1リットル(ℓ)当たり18ペンス(約36円)を課税したのだ。
すると製造業者は糖分削減を選択し、砂糖含有量が5gを超える飲料の割合は、49%から15%へと劇的に低下し、飲料から摂取される砂糖は35%減少した。この政策は、小学6年生の女児だけで年間5000件以上の肥満を予防したと推定され、その恩恵は最も貧しい地域で最大であった。
メキシコの物品サービス特別税は、消費削減を促すことに成功した事例である。1ℓ当たり1ペソ(約8円)という従量税は、消費者価格を10~13%引き上げ、直接的な価格ショックとして機能した。
メキシコは加糖飲料の消費量が世界で最も多く、特に低所得者層では、1割程度の価格上昇であっても、消費者は購入量を大幅に減らし、水などの非課税飲料へと代替する行動をとった。その結果、加糖飲料の購入量は7.6%減少し、低所得世帯では9〜17%減少と最も大きく、10年間で約20万件の糖尿病を予防すると予測されている。
フランスの「ソーダ税」は、効果が限定的だった。12年の税は1ℓ当たり0.07ユーロ(約12円)と低額であり、企業が増税分を価格に転嫁しなかったため、90%の加糖飲料の価格に変化がなかった。18年の改革で導入された多段階の累進課税制度は、非常に細かく段階が刻まれていたため、英国の「障壁型」のように、製造業者に行動変容を促す効果は小さかった。
