2024年11月22日(金)

World Energy Watch

2023年7月10日

 フロリダ州は昨年12月、ブラックロックから20億ドル(約2900億円)を引き上げたが、ブラックロックは昨年の第4四半期だけで840億ドル(約12兆円)の運用資産の増加があったとし、ESGの方針に変更はないとした。

 しかし、今年6月、ラリー・フィンクCEOは、「ESGは政治的に利用されるようになり、右からも左からも攻撃を受けるようになった。今後ESGとの言葉を利用することはない。異なる名前であれば、環境、社会、企業統治に取り組む」と、ESGの利用を止めたと取れる発言をした。

 ESGをめぐる分断は消費者にも及んでいる。ESGへの姿勢をアピールするため、LGBTQ+(性的少数者)への取組を行っている企業の製品がボイコットの対象になり、株価が大きく下落している。

売れなくなったバドライト

 米国で最も売れるビール銘柄バドライトは、TikTokで1000万人以上のフォロワーを持つインフルエンサー、ディラン・マルベイニーさんと提携し、キャンペーンを行った。マルベイニーはトランスジェンダーだ。

 マルベイニーが、自分の顔がプリントされたバドライト缶が登場する動画を4月1日に公開したところ、大きな反発を受けた。4月3日にはシンガーソングライターのキッドロックが、罵りながら河原に置いたバドライトをライフルで射撃する動画を公開し、30万以上の「いいね」を集めた。

 反ESG運動を進めるデサンティス・フロリダ州知事は、4月中旬のインタビューで「目覚めた資本主義(Woke Capitalism)ではなく、人々により管理されたい」として、バドライトのボイコットを支持する立場を示唆した。

 バドライトのシェアは4月から下落を続け、販売は25%減、シェア1位の座を譲った。製造会社アンハイザー・ブッシュの株価も4月初めから下落を続け、今は15%下がったままだ(図-1)。

 ボイコットのターゲットは広がっている。ディスカウントストアを展開する赤い的のマークで知られるターゲットがLGBTQ+関連商品のキャンペーンを始めたところ、商品が壊されるなどの反発を受け、商品を目立たない位置に変えたり、撤去する事態に追い込まれた。株価も4月初めの166ドルから132ドルに20%下がった。

 ノースフェイスのブランドを展開するVFコーポレーション、ナイキなどにボイコット対象は広がりを見せている。テスラのマスクは、ターゲットの株価下落に触れ、下落を招いた会社の方針に問題があり、集団訴訟される可能性もあるとツイートしている。

 テスラのESG評価は低いが、マスクは評価向上策を採用するつもりはないようだ。

テスラの低ESG評価の理由

 テスラの低評価の原因は、マスクによるワンマン体制の経営、社内での人種差別疑惑、米国工場の劣悪な作業環境などにあるとされる。マスクは、「事前に決められた基準での評価では企業の革新的技術開発、社会を変える力などを測ることはできないし、ESGは投資の基準としても利用できない」と考えているようだ。

 要は、ESGは余りに狭い分野を測定しているので役に立たないとの批判だ。S&Pによる、世界の自動車メーカーのESGのスコアは図-2の通りだが、マスクが考える変革、社会を変える力を見る指標ではないだろう。

 ESGは、投資の意思決定にも利用されている。評価の高い会社のリスクは少なく、利益を上げるガバナンス体制が取られているはずだ。では、ESGの評価が高い会社は、相対的に高い利益を上げているのだろうか。


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