「物流」と聞けば、誰もが宅配大手の会社の名前を思い起こすだろう。だが、日本の物流を支えているのは、多くの中小トラック運送事業者なのだ。小誌取材班は、4人のトラック運送会社の経営者に、経営手法や経営哲学、そして多くの荷主や一般の人たちに知ってもらいたい〝現実〟とは何かを聞いた。
経営努力をしても
適正運賃の4割も安い
「2024年問題」を見据えてまず取り組んだのは、長距離路線からの撤退だった。3年前のことだ。残業規制が導入されれば、現在のリードタイム、運賃では無理だと判断した。今は関東圏内のルートを増やしている。
とはいっても、長距離輸送の要請があれば、対応せざるを得ない。ごく少数だが、こうした要請は大手の物流企業からだ。ほぼ8割〜9割、荷役などの附帯作業もやらされる。断れば「仕事はあげない」というスタンスだ。
附帯作業をするのは、本来、ドライバーの仕事ではないと訴えても、「今までやっていたじゃないか?」となる。大企業の担当者は「自分のいる間は余計なことをしてくれるな」「予算でとっていないから別途の費用が払えない」というスタンスがほとんどだ。運送業者の多くが中小企業で、大手はごく一部だ。中小企業がどんなに声を上げても蓋をされてしまう。
大手企業を中心に春闘で「満額回答」だと、報じられているが、結局、運送業者までそれが波及するかといったらそうではない。
今年2月にNHKのニュースに出演し、「運賃が適正価格の4割安い」と言ったことは、仲間内からは「よく言った」と、褒められた。
一方で変化もあった。取引先である荷主の会社の代表が物流の担当部署に対して「うちの会社もそんなめちゃくちゃなことをやっているのか?物流を見直せ」という指示があったと聞いている。
言い値で従う会社もあるが、当社はあまり値下げをしない。安い仕事を引き受ける会社は、質に問題がある場合もあって、われわれに仕事が回ってこない、ということにはならなかった。それでも、4割安い。
ただ、附帯作業のどこからどこまでをやるというのは、良好な関係の取引先でも線引きはできていない。荷主に対して分かってもらうように働きかけている。
荷物を効率的に運ぶため、できるだけ空車を減らすことを実践している。例えば、東京23区から多摩地区に荷物を運ぶ都内の業者がいるとする。わが社も都内に荷物を運ぶから、どちらかがやめれば、往復で仕事ができるようになる。業界のつながりや人からの紹介でそうした取引が可能になる。共同配送により無駄をなくすことは可能だ。何らかのつながりがあればお互いにウィンウィンの関係になれる。知らない会社とはそういったことはやらない。関係があるからこそ、無理難題を押し付けられることもない。
そもそも、国が決めた規制に対して違反することを黙認されているのが実態だが、それを強いているのはどこなのか。「この会社は違反ばかりしている」と言って営業停止の処分を受けるのは、われわれ中小の運送会社だが、発注をしている大手の荷主企業が問題視されることはまれだ。