物流の問題は多岐にわたり、かつ複雑に絡み合っているので、改革は一筋縄ではいかないが、物流が事業である以上、根本的な問題は「お金(運賃)」であり、この「運賃」を支点とした、運送事業者と荷主との「パワーバランスのいびつさ」を解消しない限り、全ての問題は解決しない。多くの運送事業者は、利益の出ない仕事でも荷主との関係性や自社の懐事情などの理由から、上手く仕事を選別できないケースが多い。運送事業者は「我慢して仕事をしていれば、いつかは運賃を上げてくれる」といった幻想を抱き、不平等条件のまま受託し続けるスタンスから脱却すべきである。
一方で、荷主も意識を変えてほしい。運送事業者を、本来あるべき「ビジネスパートナー」ではなく「使用人」程度に思っていることが少なくない。倉庫に荷物を搬入する際、セキュリティーを理由にドライバーがトイレを借りることができなかったり、荷物を保護するダンボール箱に少しキズが入っているだけで不良品扱いされて弁済金を求められるなど、不条理なことも多く、決して対等な関係とはいえない。
しかし中には、物流側の背景を理解し、われわれのコンプライアンス重視の姿勢を評価し、説明すれば必要な経費を支払ってくれる荷主も存在する(編集部注・横浜食品サービスはその一社。コラム2参照)。こういった荷主と運送事業者が、お互いの古い体質を断ち切り、フェアな関係性を育んでこそ、物流問題は好転していくと思う。
適正な事業をしてメシを
食っていかなきゃならないんだ
私が若い頃は、家にも帰らず命を懸けて働いていた。しかし、1990年に「物流2法」が成立してからは、運賃が大幅に下がった。現在、20台以下の中小零細事業者は、毎月借り入れするなどして何とか事業を継続しているのが実態だ。こうした事業者は、大手の元受けと取引を持つことも、物流子会社とも付き合うこともできないから、結局、下請けにならざるを得なくなる。
かつて米国のメーカー(オレゴン州ポートランド)との付き合いがあり、風力発電の部品などを運んだことがあった。その時に実感したのは、「日本と真逆」だということだ。日本では、メーカー(荷主)都合で物流計画が立てられるが、米国のメーカーからは、運送会社が主体となって出荷・納品計画を立てるように依頼された。運賃もわれわれに決めさせてくれた。
日本の物流現場では、フォークリフトによる荷卸しを現場でやらされることが多いので、ドライバーのほとんどが免許を持っている。実際、わが社でも、現場では約6割がフォークリフトの仕事もやらされている。断れば、「ほかの業者を探すから」と言われる。
残業規制が導入され、法を守ろうとすると、仕事の途中で休憩をとる必要があり、本来なら帰宅できる時間に帰れなくなって、「そこで泊まってください」といった事態も起こるだろう。法を守るために、あと1時間で帰ってこられるのに、できないとなると、ドライバーにとっても負担が大きい。
加えて高速道路の料金改定が来年に行われる。これまでは夜12時から朝4時までに料金所を通れば、3割引きが適用された。それが、夜10時から朝5時までの間を通行したものだけが3割引きとなる。そうなると、割引時間に間に合わせようとして多くのドライバーが寝ないで必死で走るため一般道の事故も増えるかもしれない。
プロドライバーは、基本給のベースアップよりも、もっと働きたいという人が多い。とにかくいまは運賃を上げたいところだが、上がってない。営業利益は1~2%しかない状態だ。最低でも7%は欲しいし、安全運転を守っていくためには12%はないとやっていけない。安全にはお金がかかるものだ。
一方で、中小零細の運送事業経営者は、もっと会社経営のことを勉強しなければならない。先日、大手との仕事を2件、断ってきた。従業員からも「社長、そんなことをしても、他に仕事を持って行かれるだけだよ」と言われた。それでも「われわれは、適正な事業をしてメシを食っていかなきゃならないんだ」と説得した。
トラック運送業界における残業規制強化に向けて1年を切った。「2024年問題」と呼ばれる。 しかし、トラック運送業界からは、必ずしも歓迎の声が聞こえてくるわけではない。 安い運賃を押し付けられたまま仕事量が減れば、その分収益も減るからだ。 われわれの生活を支える物流の「本丸」で、今何が起きているのか─