2024年7月21日(日)

田部康喜のTV読本

2024年7月21日

 「新宿野戦病院」(フジテレビ系・水曜夜10時)は、クドカンこと宮藤官九郎の代表作となる傑作コメディである。新宿・歌舞伎町にある経営が傾きかけた病院を舞台にして、「トー横」と呼ばれる、若者たちがたむろする現代の夜の街を俯瞰しかつ地べたをはうようにして現実を描いていく。

新宿・歌舞伎町の矛盾を笑いとともに描く「新宿野戦病院」(フジテレビHPより、以下同)

 天才・クドカンはインタビューのなかで、脚本家あるいは監督としての活動の画期となったのは東日本大震災後の東北と東京を舞台にした、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)の脚本と監督を務めた映画「中学生丸山」(13年)だった、と語っている。後者は性に悩む中学生の団地での日常が背景にあって、実は知人だった人物が連続殺人犯だったという奇想天外のドラマである。

 いずれにしても、先行きに不安がたちこめていた列島を笑いと涙で吹き飛ばした傑作である。クドカンはつねに時代とともに歩んできたといえる。また、観客はクドカンによって救われてきた。

ネット時代の視聴者への「ツカミ」

 「新宿野戦病院」の第1話(7月3日)は、ドラマの冒頭から歌舞伎町で老人や若者を助ける、NPO法人「Not Alone」新宿エリア代表の南舞(橋本愛)が、スマーフォンを使った歌舞伎町の実況中継で「新宿は安全な街です。病院も5カ所あって緊急対応も万全です」と、街を紹介している最中にけんかが起こって南ははじき飛ばされる。けんかのけが人を病院に運ぶ救急車がかけつける。

 救急隊員がけが人を受け入れてくれる病院を探す。歌舞伎町にある「聖まごころ病院」しかないことがわかる。けが人は叫ぶ。「まごころはやめてくれー!」

 観客は一気にドラマの世界にひきずりこまれる。それはテンポの速さとか遅さとかいうことではない。「ツカミ」の問題である。

 NetflixやAmazon Primeなどのネット配信の本格時代の観客の視聴態度は激変している。1シーズンのドラマを毎夜2、3話観る。週1回のドラマを欠かさずに観る、録画をまとめて観るのはまどろっこしい。

 クドカンは大石静との共同脚本による、Netflix配信ドラマ「離婚しようよ」(23年)によって、早くもネット配信時代の呼吸を飲み込んだようだ。


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