「民間人を意図的に狙った」 人権団体の調査結果を否定するハマス
とりわけハマスが文書の中で力を入れているのが、10月7日の出来事をめぐる言説の再構築だ。ハマスの「正当な軍事作戦」が歪曲されたとして、子どもの殺害や女性へのレイプは「虚偽と捏造」であり、民間人殺害は意図されたものではなかったと主張する。
「イスラエルは、西側メディアやシオニスト・ロビー団体を巻き込んだ世界規模の偽情報装置を起動させ、ガザに対する殺害と包囲を行ってきたイスラエル軍ガザ師団という軍事目標を狙った正当な軍事作戦を、”民間人や子どもを標的にした攻撃”であるかのように歪曲した。 (ハマスが)子どもを殺した、女性を強姦したという一連の虚偽と捏造を広め、それによって、あらかじめ計画されていた”ガザを地上から消し去る”ためのジェノサイド計画を正当化する道を切り開いた」
だが、ハマスによる民間人殺害は本当に虚偽、捏造にすぎなかったのか。これについては既に、国連や人権団体の調査によりハマスの越境攻撃は「民間人を意図的に狙った」と結論付けられ、殺人や拷問、レイプは実際にあったとして「イスラエルへの奇襲は、国際人道法違反や戦争犯罪に当たる」と報告されている。去年暮れまでに大規模な調査結果の報告をした国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、ハマス指導部に対して「犯された犯罪を公に認識または非難することを怠り、不正行為の責任をガザ出身の無所属のパレスチナ人に転嫁してきた」と厳しく非難するに至っている。
つまり、ここでのハマスの主張は検証されてきた事実にそぐわない。
犠牲を「美徳」として称えるイデオロギー
ハマスのイデオロギーが如実に表れるもう一つの特徴が、「犠牲の美徳化」だ。
市民からは、抵抗の名のもとに犠牲者が増え続けてもなお武装闘争を諦めないハマスに対して、次第に批判も高まっていた。それは、トランプ氏主導の停戦交渉第1段階が合意された10月以前に行われてきた世論調査で、ハマス支持がとりわけガザにおいて下落していたことからも明らかだ。だが、この文書では犠牲を「殉教」として称えるハマスの精神性が浮かび上がる。ハマスは「犠牲こそが救済への道」、「偉大な民による偉大な犠牲」と、ことさら強い言葉で犠牲を美化する。
「それ(2023年10月7日の越境攻撃)は巨大な犠牲を伴う瞬間であり、パレスチナ人が世界に向かってこう告げた瞬間であった――『我々は永遠の被害者ではない。尊厳のために闘う民であり、祖国を失うのを黙って見ている存在ではない』と」
これは、越境攻撃が「巨大な犠牲を伴う瞬間」であることをハマスが認識していたことの裏返しでもある。現に、文書では「解放の大義」のために、ハマス指導者やその子ども、孫、親族らも殉教者として殺害され、指導者自らが殉教により「指導力を体現」し、「犠牲と堅忍の最高の模範」となったと高らかに述べる。つまり、指導者やその親族らが殉教者として天に捧げられたことは「模範」であり、翻って市民の犠牲も称えられるべきものとして描かれているわけだ。だが、果たしてガザ市民が皆、抵抗のために「殉教」を厭わない、自分や子どもの命を捧げてもなお闘い続けるという意思を持ち続けているのか――「ハマス=ガザではない」という訴えは、市民から極めてよく耳にするものだ。
