ファタハ内部から噴出する批判とアッバス派の実質的敗北
今回の選挙の背景には、対立勢力排除の構造も存在する。アルジャジーラの番組に出演した西岸の著名な政治家であるムスタファ・バルグーティ氏は、パレスチナ自治政府が立候補の絶対条件としてイスラエルの国家承認などを含むパレスチナ解放機構(PLO)の政治綱領への同意を義務付けた大統領令を批判した。バルグーティ氏は番組内で、この条件を「表現の自由や信条の自由を侵す憲法違反だ」と述べ、条件撤回を求めて自身の党を含む多くの政治グループが選挙をボイコットしたと語った。同氏によれば、ヨルダン川西岸地区の429のコミュニティのうち、競争選挙が行われたのはわずか183(約42%)にとどまっており、無投票や候補者がいない地域も多く存在した。バルグーティ氏は、三権分立が機能していない現状において、今回の選挙をもって真の民主的改革とは呼べないと厳しく断じた。
また、ガザでの予想を超えた低投票率を受け、パレスチナ自治政府を主導するファタハの指導部に対しては、他派閥からだけでなくファタハ内部からも批判が噴出した。SNS上には、ファタハ指導部の無責任な姿勢を告発する痛烈な内部批判が次々と投稿された。
「ガザのファタハ指導部は椅子の奪い合いで忙しいようだ。自分たちの利益しか頭になく、自治体選挙でファタハが勝とうが負けようが、利権さえ手に入ればどうでもいいのだ」
「ファタハのリーダーたちが市民に何をした?ハマスのクズどもにガザを売り飛ばしただけじゃないか。ガザ市民を売ったんだ」
「必死に椅子にしがみついているファタハ指導部の連中は眠りこけたまま離そうとしない。誠実な党員を現場から排除してしまったんだ。もう休んでくれ、十分だろう。若いリーダーたちにどうかチャンスを」
こうした内部の亀裂は、ヨルダン川西岸地区における選挙干渉の実態からも浮き彫りとなっている。イスラエルの放送局「i24NEWS」のインタビューで、ファタハの改革派メンバーでアッバス政権に対する反対派として知られるサミール・サンジラウィ氏は、パレスチナ自治政府が早い段階から対抗馬となる候補者を排除し、競争力のある名簿の形成を妨害したと証言した。しかし、西岸地区において競争があった複数の都市では、ファタハ内部の反主流派や新しい世代、無所属の候補者が勝利を収めている。サンジラウィ氏はこの結果を「アッバス氏の著しい敗北」であり、パレスチナ人が変化を望んでいる明確なメッセージであると分析した。
今回の投票は、戦後のガザ統治を再構築しようとする国際的な議論の場において、パレスチナ自治政府の存在感が極めて薄れているなかで行われた。トランプ米大統領が議長を務める「平和評議会」が設立され、パレスチナ人の実務家組織を中心に復興の現場が委ねられることになっているが、自治政府の姿は見えてこない。アルジャジーラの取材に応じた政治アナリストのウェサム・アフィファ氏によれば、自治政府が極めて困難な状況下でガザでの選挙をあえて強行したのは、自らの存在と正当性を国際社会に示すための「必死の試み」であったと指摘する。
