2026年4月16日(木)

Wedge REPORT

2026年4月16日

 もう間もなく日本のGDPを抜き去る勢いの、世界随一の成長市場、インド。この14億人市場の巨大な需要による引力に、多くの日本企業が惹きつけられています。ただしインドは無比の可能性を秘めるのと同時に、無数のビジネス上の「インド・リスク」をも内包しています。本連載では経済・文化・権力構造の各分野の「インド・リスク」を分析していきます。

*本記事は、『インドビジネスのオモテとウラ 14億人市場の「世界でいちばん面倒くさい国」』(ウェッジ)から一部抜粋、編集の上掲載しています。
(Priya darshan/gettyimages)

 現代日本に住み一般的な企業に所属していますと、ビジネス上、日常的には取引することがないのがインフォーマル経済、インフォーマルセクターでしょう。インフォーマル経済(非正規経済、非公式経済、体制外経済、未組織経済)は、国家による規制や保護を受けていないすべての経済活動や雇用を指します。犯罪活動などの違法性をともなった闇経済や地下経済とは異なりますので、誤解のないように区別しなければなりません。

 インフォーマル経済の範疇には、国の管轄当局に登記がなされていない事業者であったり、税制や労働法制などの正式な枠組みの外で活動する事業者や労働者であったりが含まれます。

 日本の非正規労働者も広義の定義上ではインフォーマル経済の主体ではありますが、インドの非正規労働者よりは正規度が高いと言いますか、さまざまなセーフティネットも用意されています。日本はほとんどの事業者が正規であるだけでなく、労働者についても、国際労働機関(ILO)の定義(=インフォーマル経済は「法の範囲から外れた経済活動」を指す)のもとでは、日本の非正規労働者は厳密な意味での「インフォーマル経済の主体」とは一般的に見なされないと評価できます。

 日本の派遣労働者やパートタイマーは法律の枠組み内で雇用されており、完全に法(労働関係の法令)の外で働いているわけではありません。彼らは事業者に雇用者として登録され、税や保険(社会保障)の手続きもなされているため、典型的なインフォーマルセクター(例えば無許可の露天商、マイクロビジネスや日雇い肉体労働者、農村部の自給的農業)とは異なります。一方で、インドの非正規は国の保護をほとんど受けられないバリバリ正真正銘の非正規です。

 日本で事業活動を行う場合、通常は個人事業主として税務署に届け出たり、法人として法務局に登記したりした上で、その経済活動にともなって納税するということになります。これらの手続きを踏まないのがインフォーマル経済範疇の事業活動です。

 インフォーマル経済は、国の管理が行き届いてない経済活動ということになりますので、今の日本の状況からすると、「国の管理下にない=違法組織」のように直結して考えてしまう方も多いかもしれませんが、前述のようにインフォーマル経済と違法性ある闇経済はまったく異なるものです。インフォーマル経済は反体制的な活動ではありませんし、国家の管理能力が未熟だからこそ自然に存在してしまっているものです。

労働者の9割が非正規

 それでは、この「準アウトロー」としてのインフォーマル経済の規模がインドではどれくらいあるかと言いますと、なんとなんと2025年現在で「労働者の約90%、GDPのおよそ3分の1から2分の1」程度ではないだろうかと推測されています。

 どうして「程度ではないだろうかと推測されている」といった曖昧な表現しかできないかと言えば、国家が把握できていない経済活動だからこそインフォーマル経済なのであって、国が完全に把握できないのは当然でもあります。インフォーマルセクターの個人や事業者は、一般に税務申告や企業登記をしていないため、国家統計局(NSO)は大規模なサンプル調査または代替指標を用いてその生産額をなんとか推計しています。働いている人のほとんどがインフォーマル経済にいる社会がインドなのです。

 正規企業(フォーマル企業)内での非正規労働者ないしは、非正規企業で働く非正規労働者、そして非正規事業主がインフォーマル経済の主体であって、言い換えれば、公務員、軍人ないしは大規模正規企業の正規労働者などだけがインドのフォーマル経済に組み込まれています。


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