2026年4月16日(木)

Wedge REPORT

2026年4月16日

 インドは1980年代になっても9割がインフォーマル経済である状態を維持してしまったというだけでなく、数十年にわたる政府の社会主義的政策と正規化推進策がかえって、少数の「強力な労働組合と制度保護を持つ正規部門」と、大多数の「権利なしで働く広大な非正規部門」という少数上級国民と大多数下層国民という構造を強固にしてしまったのです。インドは「革命なき民主主義国」(※これについては書籍内で詳述)でありながら、まさに旧共産圏や急進的社会主義国の経済政策失敗ケースと近似したトホホな経済構造になってしまったのです。

日中と比べ「一足遅かった」ことの弊害

 そして、1991年にインドは経済を自由化し市場志向モデルへと移行したものの、それから30年以上が経過した現在でも分厚いインフォーマルセクターは温存されたままになります。

 現在のインドが得意なICT産業や小売業など第三次産業での雇用においても、参入コストが低く小規模資本の事業者が多いため、当該企業が非正規主体であるケースが多いです。そこで雇用される者も非正規労働者になります。ふと思い返せば、戦後復興から戦争特需などを経て成長期を迎えた日本や、インターネットビジネス前夜に改革開放を迎えた中国では、理工系エリート層が当時最先端の製造業など第二次産業(教育程度が低い労働者の雇用も創出する産業)にも参入していきましたが、インドでは時代がズレて理工系エリート層が一旗揚げられる対象としてICTや金融など第三次産業(雇用創出が容易ではない、教育程度が低い労働者の雇用はさらに困難)に進んだことは、その後の大きな産業構造の違いになったかもしれません。

 前述のように2020年代初頭の時点でも、インドの労働者の半数以上が非正規の自営業者(農業、マイクロビジネス商店主、ギグワーカーなど)で、約4分の1が非正規労働者(正規企業内または非正規企業内を問わず)です。正規雇用ポジションの少なさ(※特に低学歴者では顕著)により、ほとんどの労働者が非正規雇用の身分を受け入れざるを得ず、非正規雇用の連鎖が続いています。

 民間調査会社のインディアスペンドによる全国サンプリング調査のデータ分析によると、経済自由化後の22年間(1991~2012年)に増加した約6100万件の雇用のうち、約92%が非正規雇用であったとされます。インド財務省の2024年度労働力調査(PLFS)によると、2023~24年の自営業者(ほとんど非正規)の平均月収は1万3279ルピー、正規の給与所得労働者では2万702ルピー、非正規の給与所得労働者は1日418ルピー(月給換算約1万2750ルピー)でした。手厚い社会保障を受けることのできる正規の賃金労働者(政府か正規の民間大企業内のポジションなど)は10%から20%程度に過ぎませんでした。

税制と規制を前に正規化のインセンティブを失う経営者たち

 インフォーマル経済が現在まで維持されてしまった筆頭要因は、繰り返しになりますが、経済自由化しても労働法が正規雇用に対して厳しい条件のままであって、ある程度の規模の正規企業でさえ正規雇用を増やさなかったことです。労働力が国家の繁栄に重要な工業部門に流れるべき時代とタイミングを逸してしまいました。

 税制とその他の法規制も複雑怪奇かつ雁字搦めなので、中小企業経営者らは自社を正規化することが官僚主義、形式主義の餌食になるだけであってメリットが少ないと判断してしまいました。農村部から大量の低学歴労働者が都市部に流入したときの正規化の受け皿がなく、彼らは自ら非正規のマイクロビジネス(屋台や運転手など)を始めるだけでした。


新着記事

»もっと見る