2026年4月16日(木)

Wedge REPORT

2026年4月16日

 ちなみに、OECD先進国(アメリカ、西欧、日本など)では、インフォーマル経済が占める割合は比較的小さく、経済生産の15%以下に留まるだろうとされています。特に日本はきめ細かくフォーマル化されていますし、圧倒的な個人セーフティネットのある日本社会とインド社会の非正規労働者を、同等にインフォーマル経済主体と定義づけるのも違和感があります。普段日本社会だけで生きていると、インド的な本物の(?)インフォーマル経済の具体的イメージはつきにくいかと思います。インドの非正規は生命の最低ライン保障がなく「ホントにヤバい」のです。

「インドの非正規よりは正規度が高い」日本の非正規労働者数は、今世紀に入って増加傾向を続け2010年代半ばに全雇用者の約3分の1強が非正規となり、2015年から2024年までおおよそ2000万人から2100万人強の人数で推移しています。日本にも3割から4割の非正規(インフォーマル)労働者が存在することになるものの、インドと異なり、低所得の正規労働者と非正規労働者の間には絶望的な身分差があるわけではありません(※両方ともに生活はキツイ)。

 インドは1割の上級国民と9割の庶民(低級国民)という現実的な格差構図であり、しかもそれが部分的にカースト制と結びつき世代を超えて身分硬直化もしています。9割もの庶民がインフォーマル、すなわち経済的に制度の埒外・システムの枠外に存在するといっても過言ではありません。これでは自然に、社会全体に経済的モラルハザードが発生し、遵法精神からは遠ざかります。正直者が損をする社会の土台になってしまっています。

 中国の体制はフォーマル化を進めてきたと同時に、社会システムの枠外に人民がいること許しません。これが同じ14億の大量人口を抱える両国の大きな差異にもなっています。中国は「上に政策あれば、下に対策あり」といわれますが、インドでは「上にルールあれば、下にズルあり」といった状況です。

 インフォーマルというGDPに反映されにくい混沌の経済活動が存在するGDP世界第3位の超大国というのは、なかなか怪しいマサラの香りが漂ってきます。

インドにおいてインフォーマル経済はもはや「ソフトインフラ」

 インフォーマル経済活動の主な特徴としては、参入コストが低い事業で、事業継続年数に関係なく事業規模が小さく、現金ベースの取引が多いことが挙げられます。彼らは税務当局や行政機関とのコンタクトも薄く、税務上でも法的にも国から厳しく縛られることはありません。

 非正規労働者は一般的に雇用の保障や社会的保護を欠いています。書面契約も、有給休暇も、健康手当も、社会保障もないことがほとんどです。所属先が正規企業であっても非正規企業であっても、使用者に対して立場が弱いので往々にして劣悪な労働条件にもなっています。結果として、貧困とセーフティネットのない生活に苦しむことになります。これはインドに限ったことではなく、国家というフォーマルな管理主体が弱い途上国ではインフォーマル経済の範囲が広いことはよくあることですが、人口の多いインドはその絶対数において世界最大規模のインフォーマル経済保有国です。

 インフォーマルであるがゆえに公式統計はありませんが、国際通貨基金(IMF)によれば、世界全体では世界の雇用人口の約60%(約20億人の労働者)が、少なくとも部分的にはインフォーマルな手段で生計を立てているとされています。また、世界中の企業の80%以上が非公式(ほとんどがマイクロビジネス)であって、非正規雇用は途上国や特定の部門(農業、建設業、マイクロビジネスなど)でよく見られ、多くの低所得国では雇用の4分の3以上が非正規雇用という報告もあります。日本でも解決されるべき「非正規問題」が議論されますが、世界全体では「問題」を超えて恒常的に存在しているソフトインフラとも言える状態です。


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