加えて木材生産が活発になれば林業を中心とした経済振興になる。また木に囲まれた室内で過ごすのは健康によい……等々も理由に添えられている。
法整備も進んだ。2021年には「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立した。それを契機に自治体による補助制度もいろいろ設けられた。それらが木造建築を推進しているのは間違いない。
挙げられた木造の効用は林野庁も強調している点だ。だが、これらの言い分の陰には、大きな欺瞞が隠されている。
日本の建築に使用される木材の〝真実〟
そもそも現在の木造建築に使用される木材は、必ずしも国産材ではない。いや外材の方が圧倒的に多いだろう。つまり日本の林業振興には、あまり役立たない。また海外からの遠距離輸送に掛けるエネルギーを勘案すると、脱炭素への貢献度は弱まる。
関西万博のリングも、大半はフィンランド製の集成材だ。近年日本で消費される木材は、北米産のほか、ヨーロッパ産木材の加工品が増えている。
それなら国産材を使用すればよいのか。日本の森は増えているし、森林整備で出る間伐材なら安いからコスト削減にもなるだろう……。こうした意見も少なくないが、ここでも建築家の林業に対する無理解が露呈する。
まず間伐材が安いというのは真っ赤な嘘だ。むしろ抜き伐りするのは手間がかかりコスト増なのである。森の木を全部伐る皆伐の方が安上がりだ。間伐材は売れにくいから安くなったのであり、安い木材なら使う、という発想が林業界を苦しめている。
一方で樹木は伐られたら二酸化炭素を吸収しなくなるから、伐採後すぐに再造林を行う必要がある。新たに木が育てば炭素蓄積になる。ところが現状では、皆伐面積の3割程度しか再造林されていない。
造林費用の問題のほか、人手不足や獣害などもネックとなって、再造林意欲は弱まっている。むしろ林業経営を終えたくて、今ある木を全部伐ってしまおうという所有者も多い。当然、跡地に造林する気持ちはない。
それに伐った木(スギやヒノキなど)の多くは樹齢60年生以上だから、同等の炭素を固定するには、すぐに再造林しても60年はかかることを意味する。日本がカーボンニュートラル達成の目標としている2050年時には、まだマイナスのままだ。