2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2021年3月19日

ヤンゴン市内で連日抗議の声を上げ続けるミャンマーの女性たち(ヤンゴン市民提供)

 我々日本人自ら「親日国」と形容することも多いミャンマ――。ミャンマーのクーデターから1カ月が経過するなか、俄かにその風向きに微かな異変が起きつつある。

丸山大使の「外相」発言に猛反発

 政府をはじめとした日本側の対応に不満を抱えているミャンマー国民の声が、ソーシャルメディア上を中心に急速に目立つようになってきている。事の発端は今月8日、国軍と太いパイプを持つと言われている丸山市郎・駐ミャンマー大使が、国軍が「外相」に指名したワナ・マウン・ルウィン氏と首都ネピドーで会談した際のこと。

 丸山大使は、クーデター後の状況に対して「重大な懸念」を表明すると同時に、ミャンマー市民への一切の暴力停止、アウン・サン・スー・チー氏らの早期解放、民主的な体制の速やかなる回復といった3点を要求した。独自に築いてきた軍政とのパイプを生かしながらの外交が行われた形だが、その夜に在ミャンマー日本大使館がフェイスブック上で、ワナ・マウン・ルウィン氏について「外相」と表記した上で、上記事項を申し入れたとビルマ語、英語、日本語で投稿。

 すると、瞬く間にミャンマー市民から非難の声が殺到。「日本政府の弱気な態度に失望しています」、「日本はミャンマー国民の声を聞かず、軍人を認めるつもりなのか?」、「ワナ・マウン・ルウィン氏は、外務大臣ではありません。誰も認めてはいけませんし、このような言葉使いをやめて頂きたい。ミャンマー国民としては強く非難します」など、痛烈なコメントが怒涛のような勢いで相次いでしまったのだ。

 これを受けて、加藤勝信官房長官は10日に行われた記者会見で、ミャンマー国軍が任命したワナ・マウン・ルウィン氏を日本政府が「外相」と呼んだことについて、「〝外相〟と呼称はしているが、呼称によって国軍によるクーデターの正当性やデモ隊への暴力を認めることは一切ない」と強調。その上で、「ミャンマー側の具体的な行動を求めていくうえで、国軍と意思疎通を継続することは不可欠で、これまで培ってきたチャンネルをしっかり活用して働きかけを続けることが重要だ」と日本政府の姿勢を説明する対応に追われた。

 茂木敏充外相も、丸山大使が会談した翌日9日の記者会見では、ワナ・マウン・ルウィン氏を「外相」と呼んでいたものの、10日の衆院外務委員会の途中から、ミャンマー市民の心情や国際世論への配慮からか「当局によって指名されている外相と言われる人」との表現を使い、軌道修正した。

左:丸山大使がワナ・マウン・ルイン外相と会談した際に在ミャンマー日本大使館がフェイスブックに投稿した内容と、「外相」という言葉の使用について非難するコメント(フェイスブックより)

 2日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)の非公式外相会議では、内政不干渉を原則として加盟国の国内政治事情などに対し介入を避けてきたなかで、各国から批判の声が相次ぐなど異例とも言える事態となり、インドネシアとシンガポールの外相がワナ・マウン・ルウィン氏に対して「外相」という呼称を使わなかったことが報じられた経緯もある。こうしたなかで、最大のODA支援国である日本が「外相」という言葉を堂々と使用したことにミャンマー市民は強く反応したというわけだ。


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