世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月5日

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 最近のミャンマー情勢について、2月1日の軍によるクーデターに対するバイデン政権の制裁に関心が集まったのは当然であるが、ウタント元国連事務総長の孫で、ミャンマーの歴史家であるタン・ミン・ウーは、2月5日付のニューヨーク・タイムズ紙で、政治的改革のみに焦点を当てるのは正しくなく、ミャンマーにとって必要なのは社会的、経済的改革であり、その必要性への関心を高めることが重要であると述べている。ミャンマーの歴史と現状に照らして正しい指摘だろう。

Victor Golmer / iStock / Getty Images Plus

 ただし、タン・ミン・ウーが、ミャンマーは極貧で不平等な国で、そのような状況の下では見せかけの民主主義しか生み出せないと言っているのは言い過ぎの感がある。2015年11月の総選挙でアウン・サン・スー・チー率いるNLDが大勝し、翌年側近のテイン・チョウを大統領とする新政権が発足し、半世紀ぶりに国民の大多数の支持を得た政権が誕生した。これはまさに民主主義であり、アウン・サン・スー・チーは実質的な指導者として外国投資を歓迎するなど経済政策の推進に励み、ミャンマー経済は7%前後の成長を遂げることとなった。もっとも、最近は新型コロナウイルスの影響をもろに受け、経済も低迷し、タン・ミン・ウーの言うように、ミャンマーにとって必要なのは社会的、経済的改革であることは間違いない。そしてそれは一朝一夕にはなしえない大きな課題である。

 少数民族による武力紛争は、長年の努力が実ってほぼ収まったが、人種や宗教の差別ではロヒンギャの問題を抱えており、解決は見通せない。経済自体については、貧困率は改善されてきているとはいえ、まだ多くの国民は貧困ライン以下の生活を強いられており、経済全体の底上げとより公平な分配が必要である。

 今回の軍事クーデターが、ミャンマーの社会的、経済的改革の足を引っ張るのは否めない。軍事クーデターは政治改革の点からのみならず、社会的、経済的改革の点からもミャンマーにとって大きな損失であった。

 翻って考えると、世界は社会的、経済的改革でミャンマーを支援してきたし、今後も支援を強めるべきである。日本も特にこの点を念頭に置いて、きめの細かい経済協力を進めてきたが、今後ともその方針を貫くべきである。

 難しいのは、今後のミャンマー情勢の展開である。クーデタによる軍政への抗議デモの高まりと、それへの治安当局の対応がどうなるかである。既に、抗議デモの参加者に死者が出ているが、これが、この程度で収まるのか、対立が武力を伴って激化するのか、それによって諸外国の協力の仕方、対処の仕方も異なってくるであろう。5年前にミャンマーで民主的政権が生まれ、西側の経済制裁が解除され、日本も含め、ミャンマーの将来の発展に期待して、海外の企業も多数進出していた矢先である。軍へのパイプもある日本が、混乱を安定化させるために、何らかの外交的役割を担えたら、それに越したことはない。

  
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