2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年12月17日

 本年7月から始まったタイにおける抗議デモは、若者を中心に広がり、とどまるところを知らない。要求項目の1つの憲法改正が議会で否決されると、抗議デモの矛先は、王制改革へ向けられている。11月25日には国王が大株主の銀行前で、11月29日には国王直属の軍部隊基地前で、それぞれ大規模デモが行われた。

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 タイの抗議デモに関して、11月25日付のニューヨーク・タイムズ紙は、社説で、タイでは抗議デモが続き、政府はついに不敬罪の適用に踏み切ったが、米国をはじめとする西側諸国はプラユット首相と軍の指導者にデモ隊の要求に耳を傾けるよう求めるべきである、と述べている。

 タイでは、若者を中心とする政府に対する抗議デモが続いている。デモはプラユット首相の辞任、憲法改正、王政改革の3つを要求しているが、ニューヨーク・タイムズ紙の社説も指摘するように、最大の特色は王政改革の要求である。

 タイには、最長15年の禁固刑を定めた不敬罪があることもあり、王室批判はタブー視されてきたが、そのタブーが破られている。デモの王室改革の要求は種々あるが、最も激しいのは王室の廃止で、それに次いで現国王の退位を要求している。

 プラユット政権もついにしびれを切らせ、切り札である不敬罪の適用に踏み切った。しかし、これでデモ隊の王室改革の要求は収まりそうにない。他方、政権側もデモ隊の要求のなかで、王室について公に論じることを禁じている法律を廃止するといった穏健な要求にすら応じる気配を示していない。その他、プラユット自身の辞任要求、憲法改正の要求に応じる様子もない。抗議デモは当分の間続くことが予想される。

 ニューヨーク・タイムズ紙の社説は、若者の主導するデモは真の民主主義を要求していると述べている。これは、現在のタイの民主主義が真の民主主義でないことを示している。その意味するところは、一つは軍の役割である。これまでタイでは政治が行き詰まると軍がクーデターを起こして政府を一新し、新政府が軌道に乗ると軍が手を引くという歴史を繰り返してきた。そのうえ、現憲法では、上院議員250名は全て軍が任命することとなっている。

 もう一つ、タイが真の民主主義と言えないのは、王室の存在である。タイは1932年の立憲革命で絶対王政から立憲君主制になった。タイ憲法は第2条で「国王を元首とする民主政体」と規定し、イギリスや日本と比べると国王の権限はやや強い。これまで政治危機に際し、国王が介入して危機を回避した例がいくつかある。イギリスや日本などで国王や天皇が象徴的存在であるのに対し、タイでは限定的ではあれ、政治的役割を果たす。

 デモは、真の民主主義を要求しているが、その要求を満たすためには軍と王室が変質しなければならないが、これは実際には困難であろう。

 一つ注意しなければならないのは、「真の民主主義」の定義付けであろう。「アラブの春」が「アラブの冬」の混乱を招きIS等のテロ組織を温床させることになってしまったのは、西側諸国が定義づける「民主主義」を早急に進めようとしたことも一つの要因であったと言われている。軍事政権=非民主主義(悪)と簡単に定義付けてしまうと、タイやエジプト、以前のミャンマー(ビルマ)で軍が一定の政治的安定の役割を担ったことを無視してしまい、すぐに制裁発動等を行い、その国との関係を狭めてしまい、逆に、それらの国を他の独裁国家に近づけてしまいかねない。タイの現状及び今後に関しても、そのような事も注視して行く必要があろう。その点、過去の経験も踏まえ、日本外交の役割は大きいと考えられる。

  
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