世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年2月17日

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Jaiz Anuar / ASEF / iStock / Getty Images Plus

 2020年11月のミャンマーの総選挙では、与党、国民民主連盟(NLD)が改選議席の8割以上を得て、単独過半数を維持すると同時に、前回より議席を増やした。ミャンマーの憲法は、国軍に議会議席の4分の1の軍人枠、内務省、国務省、国境省など主要三省の支配権などを付与し、地域には住民への監視網が張り巡らされている。また、国際投資などによる商業的利益の確保や戦争犯罪などに関連した保護などの特権も有している。NLDは昨年、国軍との緊張関係を背景に、軍人枠の即時撤廃ではなく、時間をかけた削減などを提案した。が、国軍は2015年の総選挙からの一連の動きを放置すれば将来的に全ての権限を失う脅威を感じたのか、2021年1月31日の政府代表と国軍代表の会談が決裂した後、NLD政権が2期目に入る2月1日に、民主化の流れをせき止める動きに出た。それが、世界を驚かせたミャンマー国軍によるクーデター事件である。このクーデタ―により、ミンスエ第一副大統領が暫定大統領となり、憲法417条により、期限一年の非常事態宣言が発出された。アウン・サン・スーチー大統領最高顧問の即時釈放や民主政治への復活を求める数千人規模の抗議デモが2月6日には、最大都市のヤンゴンで行われたが、警官が道路を封鎖する等があっても、大きな衝突はなく、デモは平和浬に行われた。

 これに関連して、2月1日付けのウォールストリート・ジャーナル紙は、早速、「ミャンマーのクーデターとバイデンの選択」と題する社説を掲げ、バイデン政権に、ミャンマーへの対応にはクーデターに対する倫理的な批判と同時に、中国の影響力拡大というアジアの地政学を反映した、戦略的な外交が必要だと説いている。

 バイデン政権のアジア外交チームは、トランプ政権で混乱した後の大局的な地域外交の指針を構築している最中に、ミャンマーにおけるクーデターに虚を突かれた。ウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、反トランプ色とリベラル色が強いバイデン政権が、国軍のクーデターに倫理面と感情面から過剰反応し、経済制裁などを通じて、ミャンマーを中国に接近させることをアジア太平洋地域の米国の国益の視点から戒めており、この点は妥当なものである。国軍が絶対的な権力を明け渡す意図がないことがはっきりした中、米国のミャンマー政策はミャンマー国内の民主化と中国の影響力の抑制の両面から、具体的な再構築を迫られている。

 キャンベル・インド太平洋調整官は、従来から北東アジアのみならず、東南アジアも重視する視点を有しており、早速バイデン政権内での手腕が試されることになった。キャンベルはクリントン元国務長官がミャンマーの民主化を支援する中、2009年6月から2013年2月まで国務省の東アジア・太平洋担当次官補として、ミャンマーに関与した。また、2012 年から2016年まで在ミャンマー米国大使を務めたミッチェルは、戦略国際問題研究所(CSIS)でキャンベルの部下という関係であり、キャンベルはミャンマーに相当な知見がある。

 ミャンマーというアジアにおける要衝の独立国の主権を、中国の支配的な影響力から守ることは、米国の国益と日本の国益が合致するところだ。
同時に、日本は最大の援助国としての経済協力、政府各省庁などへの専門家派遣を通じた協力、少数民族武装勢力との停戦及び和解支援、ティラワ経済特区をはじめとした投資開発活動など独自の関与を行い、米国、国際社会、国際機関からも評価される関与を行ってきた。日本は先ずはミャンマーの中長期的な民主化を念頭において、スー・チー、閣僚、各州首長、民主活動家などの拘束者の解放へ向けた働きかけを行いながら、バイデン政権が経済制裁や倫理的非難によりミャンマーを再び国軍独裁の孤立国家に追い込み、結果として東南アジアの重要拠点を失わないよう連携をとることが望まれる。キャンベル調整官は日本には官民ともに知己が多く、意思疎通は可能な人物である。

  
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