世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年1月26日

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 マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所副理事長、元米NSCアジア部長)が、1月13日のフォーリン・ポリシー誌に「バイデンはアジアについて最初の大胆な手を打った。アジアについてカート・キャンベルをバイデンの右腕とした任命は中国に対抗する次期政権の政策を力強いものにする」との論説を寄せ、この任命を評価している。その要点を紹介する。 

Leestat / seungyeon kim / iStock / Getty Images Plus

 バイデンが副大統領を務めたオバマ政権は中国にソフトであったとの評価から、次期政権は中国との戦略的競争への意欲が弱いとの声があった。しかし1月13日、バイデンは、キャンベルをホワイトハウスのインド太平洋調整官に任命した。このことは、それまでの印象を払拭する。

 キャンベルの任命はアジアにおける次期政権の立場を3つの面で強化する。

 第1:キャンベルは中国の力が大きくなる中、中国をけん制する同盟やパートナーシップを構築する戦略の初期の重要な構築者であったと広く認められている。

 1990年代半ばに、彼は力強い戦略的本能を持つ人としてアジア担当の国防省高官に任命された。2年以内に彼は冷戦後の日米同盟の漂流を止め、日米防衛協力を推進し、米日同盟の拡大を推し進めた。オバマ政権では東アジア・太平洋担当国務次官補として、彼はいわゆるアジアへの軸足移動を主導した。彼は自由で開かれたインド太平洋概念の先駆者との役割を果たした。キャンベルの軸足移動戦略は次期政権と議会両党の指導者のコンセンサスの核心であり続けている。

 第2:新しいキャンベルの地位は米国の政策当局の中でのアジアの戦略的重要性を上げるうえで前例のないものである。バイデンのホワイトハウスのアジア部は上級部長3-4人を擁し、欧州部の現在の規模の3倍にもなりそうである。こういう大きな組織再編は色々な影響を及ぼすが、もしうまくやれば大西洋関係の強化にもなりうる。NATOもEUもバイデン政権と中国について一緒に働くことに焦点を合わせている。

 第3:キャンベルの起用は中国とアジア戦略についての超党派の取り組みへの重要な賛同を示す。共和党全国委員会は2020年の選挙で、中国についてバイデンを叩くように勧めたが、同盟強化、中国からの重要技術の保護、中国に人権や民主主義で強い圧力を加えることについて、議会や外交政策コミュニティには幅広いコンセンサスがある。キャンベルの存在はアジア政策が今のように超党派である理由の一つである。故マケイン上院議員や他の共和党議員も中国、台湾、日本に関しキャンベルにしばしば助言を求めた。キャンベルは誇り高い民主党員であるが、米国が痛ましいほど分断される中、この任命は超党派性と目的の統一を代表し、重要である。

 マイケル・グリーンの論説は、カート・キャンベルがNSC(国家安全保障会議)のアジア担当調整官に指名されたことを歓迎している。マイケル・グリーンはキャンベルの仲間とも言うべき人であるので、そういう意見を持つのは当然であるが、日本の安全保障コミュニティーでも、キャンベルがNSCのアジア担当調整官に指名されたことを歓迎する人は多い。

 バイデンとサリバン次期国家安全保障補佐官は地域別に調整官を新たにおき、その調整官に大きな権限を与える意向のようである。このキャンベルについても、インド太平洋政策ツァー(ロシア皇帝の呼び名)と呼ぶことが検討され、却下されたということであるが、相当に大きな権限を与えられることになると思われる。

 キャンベルは、親日的な人であり、よく相手の話も聞いてくれる。彼の基本的発想は、これからの世界ではアジアが重要であるというものである。米外交の軸足をアジアに移すこと(Pivot to Asia)は、グリーンの論説が指摘するように、キャンベルが推進者の重要な一人であった。中国の台頭、それへの対処が重要になる中、キャンベル的発想は情勢の変化に後押しされた面もあって、今は超党派のコンセンサスになってきている。

 今後のアジア情勢においては、台湾についての情勢が重要であるが、キャンベルは台湾について好意的である。

 キャンベルとの関係を日本としても重視していくべきであろう。日本人の中にはキャンベルが約束をドタキャンするということで、ドタキャンベルとのあだ名をつける人もいるが、基本的には好感の持てる人であると考えられる。

 バイデン政権で財務長官はイエレン前FRB議長が指名されたが、その前に財務長官候補に挙げられていたブレイナードFRB理事はキャンベル夫人である。

 グリーンも指摘するように、キャンベルは、アジア政策について超党派的支持を得ていける人であろうと思われる。

  
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