世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年11月26日

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 11月8日にミャンマーでは、2015年のアウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の勝利以来、5年ぶりの議会選挙が行われた。11月13日の連邦選挙管理委員会の発表によれば、NLDが上下両院(定数646)の384議席を獲得、過半数を大きく上回る地滑り的勝利となった。したがって、スー・チーが引き続き政権を担当することになる。

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 今回の選挙はスー・チーとNLDの過去5年の統治と実績を国民に問うレファレンダムだったと位置づけられよう。2015年に比して選挙が公正とは言い難い状況で行われたことも注意を引いた。少数民族との和平のプロセスが停滞し、約束された自由と人権の擁護が進展したとも言い難い状況であったが、結果としてはNLDが信任を得たことになる。軍政に対する抵抗の歴史と草の根レベルでの動員力のある唯一の全国政党であることが、勝利するに十分だったことになるのであろう。ただし、NLDが圧勝の勢いを駆って軍の力を削ぐための憲法改正に再び挑むのかどうかは分からない。

 エコノミスト誌の11月7日付けの記事‘Aung San Suu Kyi was supposed to set Burmese democracy free’は、スー・チーに厳しい目を向ける。記事によれば、スー・チーは、NLDを鉄拳で運営しており、「党に民主主義はない」との声がある。シビル・ソサイエティーとの関係でも同様である。彼女は批判者を黙らせることを何度も企てた。2017年にはロヒンギャに対する暴力を調査したロイターの記者2人が投獄された。報道の自由は軍政の末期よりも制限されているとの指摘もあるらしい。スー・チーは少数民族が託した希望にも応えていない。彼女は軍と戦う少数民族に彼等の権利を守ると約束したが、非中央集権的な連邦国家のビジョンは何もなく、少数民族との和平プロセスは停滞している。経済成長も軍政末期より落ちている。記事によれば、こうした中、経済の運営について国を外に向かって開き始めた前大統領のテイン・セイン将軍の方がスー・チーよりも優れていたとして、民主主義と軍政とは互いに対立するものでなく共存し得るガバナンスのシステムだと見る国民が少数派ではあるが増えつつあることが示唆されるという。

 この記事を読むと、果たしてNLDと軍の対立がミャンマーの基本的問題というだけの構図でミャンマーという国を観察することが妥当なのかとの疑問も生ずる。スー・チーは変身し、民主主義を解き放つどころかその翼を切り取ったらしい。ロヒンギャ問題では国際司法裁判所での弁論を引き受けるなど、軍と協調する姿勢が目立った。上記記事が指摘するように、民主主義と軍政が共存し得るガバナンスのシステムだと見る国民が増えつつあるとすれば、現在のように軍が圧倒的な権力を握ったままという訳には行くまいが、ミャンマーの国情(ムスリムの脅威や少数民族問題の存在)が軍の一定の政治的役割を必要とし、国民がそれを許容するのであれば、ミャンマーが何等かのバランスの取れた独自の体制を模索することを諸外国が嫌悪するには当たらないということになろう。

  
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