2024年12月22日(日)

オトナの教養 週末の一冊

2019年12月26日

 ミャンマー軍主導によるイスラム系少数民族ロヒンギャへの大弾圧から2年以上が経過し、100万人を超えるロヒンギャがバングラデシュの難民キャンプでの暮らしを余儀なくされ、帰還のめどは立たない。国際司法裁判所(ICJ)では、ミャンマー政府に対するジェノサイドをめぐる審理が開始。アウン・サン・スーチー国家顧問兼外相が自ら弁護団を率いて出廷し、「内政上の武力衝突」と反論し、自らを長きにわたり自宅軟禁した政敵の軍を擁護した。

大弾圧から2年経った2019年8月25日にバングラデシュの難民キャンプで開かれた抗議集会=筆者撮影

 再び国際社会のロヒンギャ難民に対する関心が高まる中、『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』を上梓した中坪央暁氏に難民キャンプの現状やミャンマー情勢、鍵を握る中国の影響力、そして日本の役割についてインタビューした。

 中坪氏は毎日新聞ジャカルタ特派員、本社編集デスクを経て国際協力分野のジャーナリストに転じる。アフガニスタン紛争、東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争のほか、国際協力機構(JICA)の派遣で南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島など紛争・難民問題、平和構築の現場を取材している。現在は国際NGO「難民を助ける会」(AAR Japan)にて活動。2017年11月にAAR Japanに参加するとすぐに現地に派遣され、約2年にわたりロヒンギャへの支援を最前線で行うこととなる。

 「アジアのイスラム教徒と長年関わってきた私にとって、ロヒンギャ難民問題は偶然とも必然とも言える巡り合わせ」と中坪氏は言う。本著はロヒンギャの歴史を振り返り、ロヒンギャへの弾圧から避難生活の変遷を活動で得た証言を基に描き、スーチー氏をはじめとするミャンマー政府の対応、日本や中国といった関係国の動きを詳細に解説する。人道支援とアカデミズム、ジャーナリズムを融合させ、多くの人に受け入れやすい形でロヒンギャ問題を語ることを試みている。

国際評価でなく、選挙を選んだスーチー

 国際司法裁判所に自ら出廷したスーチー氏が国際世論の期待に応えるか、国内での支持を選ぶか注目が集まった。スーチー氏は虐殺やレイプなどの残虐な行為に関しては一切触れず、一部の軍による行き過ぎた行為があった、と述べるにとどまり、国際社会からの失望を買った。しかしこれは国際社会の圧力に対する精一杯の良心の答えだったと中坪氏は見ている。「スーチー氏が軍を批判しない限り、国民も軍を受け入れるという捻れた感情がある」と指摘する。

 スーチー氏は2017年9月にあくまでテロ対策に基づき、作戦を遂行し、治安部隊は民間人に危害を加えないよう行動規範を厳格に遵守した、と主張する。大多数のイスラム教徒は国内に留まっており、半数以上の集落は無傷なままであるともしており、「事実と異なる見当外れな発言を連発した」と国際社会から非難されている。中坪氏はスーチー氏が事前に、軍が掃討作戦を実行することを承認していただろうとも分析する。スーチー氏が止めようとしたとしても、憲法の規定上、国軍や警察を指揮する権限を持っていない。つまり彼女が軍部に作戦の中止を命じることは不可能であった。


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