2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2019年12月26日

利用されてしまっている日本

 一方で、日本政府は親日国であるバングラデシュとミャンマーに対していわゆるお友達外交で独自の路線を辿る。国連でのミャンマーに対する非難決議に対し、日本は全て棄権をし、あくまで中立の立場をとっている。歴史的にも経済的にも関係が深い両親日国は、日本のODAを通じた開発や民間投資に期待を寄せる。ロヒンギャ難民に関してはミャンマーへ「長年の信頼関係を生かして対話のルートを閉さずに、国際社会との橋渡しをしようとするスタンス」と中坪氏は解説する。

 ミャンマー政府は国連の調査団の受け入れを拒否し、自国の独立委員会を立ち上げた。調査団には元国連事務次長(人道問題担当)の大島賢三・元国連大使が加わった。しかし国際社会が望むような調査結果が得られる可能性は低く、「ミャンマーが独自で事実究明を進めているという世界へ向けての主張を許し、そうした思惑に日本が関わっていると国際社会から受け取られかねない」と中坪氏は懸念する。ミャンマー政府に利用されないことが重要だが、それも危ういと懸念する。

 アジア最大の人道危機に対して、いかに国際社会でのプレゼンスを発揮するかが重要となる。例としてロヒンギャ難民の55パーセント以上が18歳未満で、いわゆるロストジェネレーションの彼らは十分な教育も受けられず、満足に働くこともできないため、目標や希望を持てないまま過激な思想や犯罪に手を染めることが危惧される。「ロストジェネレーションの世代が10年後にどこで何をしているのかが気になります」(中坪氏)。日本は彼らに対して教育や職業訓練など地道な支援を行うことが重要と唱える。

 「難民支援には平和貢献を通じた国際社会での日本のプレゼンスと、不安定な国・地域あるいは民族集団に国際テロ組織が浸透するのを防ぐ安全保障という2つの観点がある」。そしてそれは結果として日本の国益につながると中坪氏は説明する。

 100万人のロヒンギャ難民がミャンマーに帰還する可能性はほぼ無いと中坪氏は予測する。そして時間の経過と共に、世間の関心は薄れ支援も減っていく。長期化するほど問題は深刻化し、重要なのは関心を持ち続けることだろう。

 「彼ら彼女らが私たちと全く対等な存在だという視点を忘れがちになる。難民支援とは食料や衣服を配ったり、トイレや井戸を建設したりすること自体が目的ではなく、何もかも失った人々がいくらかは人間らしく暮らし、その能力や可能性を少しでも生かせる環境を創出すること、つまり尊厳を回復することに尽きると思う」そして難民支援は国際社会の当然の義務であり、国益に資する活動という理念から「ロヒンギャ難民は遠い異国の話ではない」と強く訴えている。

  
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