2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年2月7日

 1月18日、中国の習近平国家主席はミャンマーを訪問し、アウンサンスーチー国家顧問と会談、一帯一路に基づく30項目以上の経済協力で合意した。中国にとってミャンマーは一帯一路の要所を占める重要な国であり、「中国=ミャンマー経済回廊」の実現に努めている。その上「回廊」の一部であるベンガル湾のチャウピュー港はマラッカ海峡を経由しないで中国内陸部とインド洋を結ぶもので、中国にとって戦略的に大きな意義がある。習近平が中国の国家主席として2001年の江沢民以来、19年ぶりにミャンマーを訪問し、中国とミャンマーの新時代を謳ったのは、中国が関係を如何に重視しているかを示すものである。

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 他方、ミャンマーにとって中国の経済的存在は圧倒的で、ミャンマーの経済発展は中国抜きでは考えられない。そのうえ西側、国際社会から批判されているロヒンギャ問題で中国はミャンマーの肩を持っており、中国は心強い存在である。また残された少数民族紛争は中国との結びつきのある武装勢力によるものである。具体的には、最大の武装勢力は約3万人で、1989年の創設以来中国との結びつきのある「合同ワ州軍」である。「合同ワ州軍」に支援された二つの新しい武装勢力が、今年政府軍と激しい戦闘をしている。従って、今後の休戦には中国が不可欠である。

 2010年代前半を振り返ると、テイン・セイン政権が軍政ながら、改革を進め、少数民族の武装勢力との和平を進め、西側との結びつきを強めていた。ミャンマーを戦略的パートナーとして引き留めておきたい中国としては、面白くない展開であった。しかし、事実上のスーチー政権に替わって以降、経済、少数民族対策などで失政が相次ぎ、とりわけロヒンギャの問題もあって、対中依存に回帰する傾向を強めている。

 しかし、それだからと言ってミャンマーは中国の要求をそのまま飲んでいるわけではない。最近の例ではチャウピューの深海港湾プロジェクトで、当初中国が73億ドルのプロジェクトとしていたものを、再交渉して13億ドルにまで規模を縮小している。また今回の習近平のミャンマー訪問時に中国側が合意を希望していたカチン州の36億ドルの水力発電所建設計画では合意をしなかった。ミャンマーは中国に飲み込まれないよう警戒感を持っており、歴史的に一定の距離を保つよう努めてきている。中国という大国の隣国の知恵であろう。

 我が国はこれまでもミャンマーを重視し、協力を惜しまなかった。経済協力では2017年までに有償資金協力で1兆1300億円強、無償資金協力で3000億円強、技術協力で880億円強を提供している。日本のミャンマーに対する直接投資は、2008-17年の間150億ドル以上で、断トツの一位であった。日本はまた、ミャンマー政府にとって内政上の最大の問題の一つであった少数民族武装勢力との和平の達成に全面的に協力した。

 ミャンマーにおける中国の存在は圧倒的で、今後ともミャンマーは特に経済発展の推進で中国に大きく頼らざるを得ないが、中国との間に一定の距離を置くというのが基本的姿勢なので、今後とも西側、特に日本の出番は大きい。日本は、ミャンマーの期待に応えるべく、引き続き経済的、外交的にミャンマーを積極的に支援していく必要があろう。

  
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