中国は、台湾の国際的活動空間を狭めることで、台湾の蔡英文政権に圧力を加えているが、最近ソロモン諸島と、次いでキリバスが台湾との国交断絶を発表し、中国との外交関係の樹立を発表した。
これには、大きな中国マネーが動いたと言われている。10月24日号の英エコノミスト誌によれば、中国土木・建設会社は、外交関係の変更のために50万ドルの借款・贈与をオファーした。他にも、中国鉄道会社は、金鉱再生のために8億2500万ドルを貸すと約束した。中国政府はスポーツ・スタジアムを建設し、台湾への借金120万ドルを肩代わりすると申し入れた。
国交樹立後、中国がソロモン諸島の一つ、ツラギ島をいわば租借する話が持ち上がった。9月、ソロモン諸島の地方の高官が中国のサム・エンタープライズ(China Sam)社と合意を締結した。この合意では、植民地時代ソロモン諸島の首都であった小さな島、ツラギ島の75年間の賃借が石油、ガスターミナル、漁港、「経済特区」の建設と共に定められていた。これがソロモンで政治問題化している。どう決着するのか、まだよくわからない。
この島を賃貸する契約を結んだのはツラギの地方当局の代表であるが、地方当局にはそういう契約を結ぶ権能はないのではないかということが問題にされている。一般論としては、これについては相手が民間企業であるとすれば、権能ありとの論もなしとの論もありうると思うが、中国は中国式社会主義で企業と国家の関係が我が国のような場合とは異なる。これを考慮すれば、中国が南太平洋に島を賃借してでてくるというのは好ましいことではない。
ソロモン諸島のマナセ・ソガバレ首相は、10月はじめ北京を訪問し、中国の「一帯一路」構想 に署名した。また首相と閣僚はChina Samと華為技術などの中国の大企業の役員と会っている。
ソロモン諸島の隣のバヌアツ島に、中国は深海港建設の計画をもっており、これは中国海軍の本拠地にもなりうるものである。
第2次世界大戦中、この地域は日米の激戦地であったが、これらの諸島が持つ地政学的価値があるからである。特に、これらの諸島は米国と豪州を結ぶシーレーンの上にある。日米豪印が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、中国の進出は、その戦略を進めていく上で、大きな阻害要因になる。これは日米豪間で話し合うべき問題であろう。
中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきた。これは防衛的戦略とも言えるが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示している。
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