10月1日の中華人民共和国建国70周年を前に、中国は南太平洋の島嶼国、ソロモン諸島、キリバスの二か国に対し、立て続けに台湾と断交させ、中国との国交を樹立させた。ソロモン諸島と台湾の断交は9月16日、キリバスは9月20日であった。台湾を承認している国は今や世界中で15か国のみとなってしまった。蔡英文政権成立時の22か国から3年半の間に、実に、7か国が減少したことになる。
台湾との外交関係の切り崩しは、中国の建国70周年に合わせて行われた。その意図は、習近平体制にとっては、米中貿易紛争の出口がはっきりしない上に、香港をめぐる大規模デモの継続に収束のめどが立たない状況下で、何とか自らが「核心的利益」と位置付ける台湾問題に対し、効果的な圧力を加え、台湾を追い詰めていることを、内外に誇示したいというのが本音であろう。
中国としては、来る1月11日の台湾総統選において民進党・蔡英文に対する圧力をますます強化し、台湾の生存する国際空間をどんどん狭めたいところであろう。蔡英文自身は、ソロモン諸国の決定は中国が1月の総統選挙に介入しようとする新たな証拠であるとして、「ここ数年、中国は金銭や政治的圧力で台湾の国際社会での場を抑圧してきた」と批判した。
ソロモン諸島が台湾と断交し、中国と国交を樹立した直後、一週間もたたずしてキリバスも台湾と断交した。この時の断交について、蔡英文政権の呉外相は「キリバスは最近、台湾の民用機の購入費用の贈与を要求し、台湾側が提案した商業ローン方式を拒否した。中国は複数の航空機や船舶の贈与を約束したという」と述べた。これは、中国の南太平洋諸国に接近する場合の台湾切り崩し策の典型例であろう。
台湾の国家安全会議は9月25日、中国が来年1月の総統選挙に影響を与えるべく今後取ると想定される措置・策略について報告書を公表したが、その中で、年末までにさらに1~2カ国との断交に追いやられる恐れがある、としている。今回の台湾と断交しなかった太平洋の島嶼国の中から、総統選の直前のタイミングで外交関係を台湾から中国に切り替える国が出てくるということは、あり得そうな話である。中国による「金銭外交」の形をとった圧力強化が、台湾の総統選挙において、民進党、国民党、その他政党のいずれに有利に働くかは予断を許さないところである。
なお、南太平洋のバヌアツは中国承認国であるが、最近、ここに中国が軍事拠点を作るのではないかとの噂が絶えない。もしそのような動きが加速されるようになれば、それはオーストラリアの裏庭に当たる場所であり、中国の言う「第2列島線」の中での軍事拠点化になり得るものである。「自由で開かれたインド太平洋」の構想に賛同する米国、豪州、日本などの国々にとって、そのような中国の動きは断じて無視できないものである。中国の太平洋島嶼国への浸透は、台湾外交の問題にとどまるものではなく、はるかに広範な地政学的意味を持っている。
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