「見たことがないような凄惨な光景が広がっていました。土石流で自宅の倉庫が半壊し、車も3台破壊されて……。行政の支援はなく不満が募る中、エスパルスの選手に、本当に、元気をもらいました」
静岡市の山間部に住む自営業の大榎直哉さんは声を震わせながら当時の状況を振り返る。
今年9月、台風15号が静岡県にもたらした被害はあまりにも大きかった。23日から翌日にかけての記録的な豪雨により、静岡市清水区では約5万5000戸が断水。その後、日を追うごとに、メディアが報じていない山間部の被災状況が明るみになった。大榎さんが暮らす清水区布沢の集落では、深刻な土砂災害により道路が崩壊し、多くの家は再建が難しい状態になった。しかし、「行政機能は麻痺していて、メディアも報じてくれない。布沢は完全に孤立していました」と大榎さんは嘆く。
布沢の惨状を知り、地元クラブの清水エスパルスの選手たちが動いた。10月1日、クラブの西澤健太選手会長の発案で約20人の選手やスタッフが現地を訪問。家屋に流れ込んだ土砂の搬出作業を行った。〝ヒーロー〟たちの登場に子どもたちは感動し、被災地には活気も生まれたという。
チームの主力を担う山原怜音選手は「いつもスタジアムで声援をいただき、地域の皆さんに支えてもらっている分、今度は自分たちが行動し地域を支える番だと思いました」と話す。
副次的な効果もあった。エスパルスの選手が被災地の状況をSNSで発信すると、後日、支援物資がたくさん送られてくるようになり、ボランティアに駆け付ける人も増えた。「選手の皆さんには感謝しかありません。これまで以上にエスパルスを応援したい、布沢のみんながそう感じたと思います」(大榎さん)。