2024年4月20日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年12月17日

Jリーグとともに
30年の歴史を歩む

 清水エスパルスが始動したのは1992年。10チームの初代参加クラブのうち唯一企業を母体としない「市民クラブ」がエスパルスだ。エスパルスの母体「清水FC」は小学生の地域選抜をルーツにもつ。街の中からチームが生まれ、育てられ、愛されてきたからこそ、サッカーの街・清水にエスパルスが根付き、その歴史は脈々と引き継がれているのだ。

30周年記念マッチでは、全国から60000人近いファン・サポーターが国立競技場に訪れた(清水エスパルス提供)

 Jリーグの歴史とともに30年の歩みを進めてきたが、その道のりは決して平坦ではなかった。97年に、当時の運営会社の経営危機が表面化し、クラブは解散の危機に。その絶体絶命のピンチを救ったのはファンや地元企業だった。クラブの存続を願う署名は清水市(当時)の人口の約1.5倍に相当する31万人分に達した。現在のメインスポンサーである物流大手の鈴与(静岡市清水区)のほか、地元企業が次々と手を差し伸べた結果、クラブは存続し今日を迎えている。

 当時の苦境を知るエスパルスの深澤陽介ホームタウン営業部長の言葉には力がこもる。

 「クラブが消滅しかけた時も静岡、そして、全国のファンが踏ん張って支えてくれました。だからこそ、根底にあるのは『感謝』の気持ちです。30年間、ファンに育ててもらったからこそ、サッカー以外でも地域に恩返ししなければならないと思っています」

エスパルスを〝利用〟し
街をオレンジ化する

 地域と共存共栄の関係にあるエスパルスが、近年、パートナー企業に伝えているキーワードがある。「エスパルスを使い倒せ」だ。エスパルスの山室晋也代表取締役社長は「静岡におけるエスパルスのブランド力は非常に大きい。『発信力』が最大の強みであるからこそ、エスパルスをうまく使っていただきたいと思っています」と語る。

 足元でもエスパルスのブランドを〝利用〟して、地域を活性化させようとする取り組みが生まれている。

 「静岡市民の認知度が高い『パルちゃん』とコラボできたおかげで、目新しい事業でも地域の住民や企業にすんなりと受け入れてもらえました」

 こう話すのは、シェアサイクリング事業「PULCLE」を立ち上げたTOKAIケーブルネットワーク(静岡県沼津市)の山内崇資営業企画部長だ。PULCLEは市民の日常生活をより便利にすることを目的とし、駅周辺や住宅地を中心に自転車のレンタル拠点(ステーション)を設けている。

 同社はエスパルスに無償でのブランド協力を依頼。自転車にはエスパルスのマスコットキャラクターであるパルちゃんの「ロゴ」を配し、ステーションにはチームカラーであるオレンジ色の「のぼり旗」を設置している。あえて「TOKAIグループ」の名前を前面に出さないブランディングに取り組み、地域企業間の連携も推進しているのだ。

静岡市内の190カ所にPULCLEの拠点がある(WEDGE)

 実際に、ステーションの用地も趣旨に賛同した地元企業より「エスパルスが関係するなら是非協力したい」と無償で提供されており、エスパルスの影響力の大きさが感じられる。ステーション数は2020年の立ち上げ当初の約5倍にあたる190カ所まで拡大(22年10月時点)。山内部長は「シェアサイクルというインフラは一企業が利益目的でやるようでは趣旨への賛同を得にくいと思います。エスパルスの力を借り、オール静岡で創り上げていくべきと考えています」と語る。

 前出の深澤部長は「PULCLEが市民の生活に溶け込めば、町のあちこちでオレンジ色の自転車が走り、のぼり旗が掲げられるようになります。エスパルスを使い倒してもらうことで、静岡の街をさらにオレンジ化することができるという点で、メリットはエスパルスにもあるのです」と期待する。


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