バイデン大統領は、カート・キャンベル元国務省次官補を、国家安全保障会議にインド太平洋調整官に任命した。これを共和党系の日本専門家マイケル・グリーンが高く評価していることは、本コラムでも紹介したとおりである。そのキャンベルが1月12日のForeign Affairsに「米国はアジアの秩序をどのようにして支えられるか」と題する論文を発表している。この論文は、ブルッキングス研究所の中国専門家であるラッシュ・ドシと共同執筆されており、対中関係に焦点を絞って書かれている。
キャンベルとドシは、現状認識について、現代のインド太平洋地域では米中間のバランスに加えて、「合法性」の原則が重要であり、中国はこのバランス、合法性の双方に挑戦しており、米国は同盟国・パートナー諸国と共にこれに対処しなければならない、と述べている。
米中間のバランスの回復に関しては、航空母艦への過度の依存よりも、中国のやり方を模倣し、相手の裏をかくような非対称的な装備を整えることを推奨する。それは長距離の通常火薬弾頭装備の巡航・弾道ミサイル、空母発進の無人攻撃機・無人潜水機、ミサイル搭載潜水艦、極超音速攻撃兵器等である。
また、同盟諸国間の協力、「クワッド」(日米印豪安保協力)の強化、インド太平洋地域内の経済提携にも触れている。
バイデン政権での布陣には、アジア問題への知見の不足が見られたが、カート・キャンベルはアジアについての知見を持つだけでなく、国防副次官補も経験していることから、政治・経済・軍事を一体化させた政策を立案することができる。彼は今回、国家安全保障会議という足場を生かし、米国政府内での対アジア政策司令塔のような任務を負うこととなる。その意味で、この論文は重要である。
この論文は中国への対処に焦点を絞ったものなのだが、日米同盟の役割については特に記述はされていない。むしろ対中抑止手段の自前化とか、アジアでの特定の基地への過度の依存からの脱却とか、醒めた文言が目に付く。他方、QUADについては特記されているので、豪州、インドとほぼ同等に、日本は考えられているのでないか。
なお、この論文は、北朝鮮及びチベット(高齢のダライ・ラマの後継問題が間近に迫っている)への言及が皆無である。
世上、「バイデン政権は対中協調」という認識がまかり通っているが、この論文は中国について「協力と抑止」を旨としており、トランプ時代との大きな違いは見られない。「うまくコントロールされたデカプリング(managed decoupling)」という用語を用いている。他にも「インド太平洋」という術語を定番として用いていること、同じ伝で「QUAD(日米豪印の安保協力)」という術語も維持していることが特筆される。なお、トランプの課した制裁関税をどうするかについての言及はない。
日米安保関係絡みで注目される個所は次の通りである。
・独自の対中抑止手段の開発を米国は助ける、としていること。これが、米国が開発している中距離核ミサイルの配備も意味することとなれば、日本国内で大きな問題となる。
・既存の基地への過度の依存は脆弱性を招くので避け、米軍を地域にもっと分散配置するとしていること。
・空母への過度の依存を薄め、別の兵器体系を開発するとしていること。
アジア地域の多国間首脳会議への参加をうたっているが、高齢のバイデンには酷であろう。カマラ・ハリス副大統領の役割が重要になる。彼女は国際政治、外交面での経験が薄いので、日本のことを十分理解してもらうことが重要となる。
東南アジアでは多くの諸国が、国内政情の不安定さ、首脳の性格、中国の進出等から、対米協力を円滑に進められない状況にある。ここでは、日本の助力が有用だろう。
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