2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年1月18日

 米国のバイデン新大統領は、これまで台湾防衛について語ったことがない。たしかに「同盟の回復」については強調しているが、台湾防衛の部分は欠落している。

Benguhan / PeterHermesFurian / iStock / Getty Images Plus

 ウォールストリート・ジャーナル紙の12月28日付け社説‘Japan’s Biden Jitters’は、日本の中山防衛副大臣の発言を引用しながら、台湾がアジア・太平洋において占める重要性について論じている。社説は、以下の諸点を指摘する。

・中山副大臣は、ロイターの記者に対し、「バイデンの対台湾政策を早く知りたい」、「そうすれば、相応の準備をすることが出来る」、「もし中国が一線を越えた時、バイデン氏は如何に対処するのか」と問題提起した。

・北京の強硬派は民主主義下の台湾を「分裂主義者の省」として、なんとか自分たちの統治下におきたがっているが、台湾世論の大きな動向は、中国による「統一」に反対であり、特に香港情勢を見てその傾向は一層強まっている。

・バイデン政権下において、中国共産党が台湾海峡を越えて軍事行動をしかけることもあり得ないことではない。 

・万一、台湾の独立が失われるようなことになれば、太平洋における力のバランスは大きく崩れ、中国側に決定的に有利に働くようになる。米国の目標は何よりも「抑止」である。米国はまず台湾の防衛を支援し、中国が台湾の島々を攻撃することが、いかに高くつくか、中国に知らしめる必要がある。

 その上で社説は、もしバイデンがアジア諸国の「同盟国」を安心させようというのなら、台湾防衛の目標をはっきり打ち出すべきだ、という。

 この社説は、時宜を得た良い社説である。台湾の蔡英文政権は、トランプ政権との関係緊密化を謀ってきたが、バイデン政権になっても変わらず、米台関係が緊密であることを熱望していることにかわりはない。台湾の世論調査等からもはっきりしていることは、米国が中国の圧力などにより、オバマ政権時代の対中「融和路線」に回帰することがないかを台湾としては危惧しているということだろう。

 トランプ大統領個人の資質については毀誉褒貶があるが、台湾の防衛という点については、トランプ政権下でいくつかの際立った進展が見られた。米国国内法である「台湾関係法」に基づく台湾への武器輸出の増大、米国関係閣僚のはじめての台湾訪問、総統就任直後のトランプ・蔡英文電話会談など、いずれも中国の強い反対のなかで実施された。ペンス副大統領、ポンペオ国務長官による、中国への「関与政策」終了の発言などは、最近の中国の強まる全体主義への警戒心と直結している。任期切れ間際にも、米台関係を強化する措置を打ち出した。1月9日、ポンペオ国務長官は、米国の外交官や軍人を含む当局者が台湾の当局者らと接触することを制限してきた国務省の内規を全面的に撤廃すると発表した。バイデン政権がこれらのトランプ政権時代の対中・対台湾政策をどこまで継承しようとするのか、大いなる注目点だ。

 バイデン氏は、意図的なことなのか分からないが、「自由で開かれたインド太平洋」という表現に変えて、「安全で繁栄したインド太平洋」という言葉を使用している。前者の言葉は、安倍政権、そしてトランプ政権も使用してきた。そこには、事実上、中国を仮想の脅威と見る前提が秘められている。新しい表現を使うところに、バイデン政権の対中融和路線の兆しが見えるという識者もいるが、いずれにせよ注意深く観察する必要があろう。

 バイデン氏の子息ハンターをめぐり、中国企業との不適切な関係が報道されたことがある。これらは単なる根も葉もないデマなのかあるいは、バイデン政権がそのうち中国から何らかの圧力や牽制を受けることもありうる類の話なのか、判然としない。

  
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