WEDGE REPORT

2021年3月19日

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海野麻実 (うんの・あさみ)

記者、映像ディレクター

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

「治安部隊」の呼称を使い続ける日本メディアに非難

 さらに、日本の各メディアへの非難も高まる事態となっている。主たる引き金は「治安部隊」という表現だ。今、スーチー氏の解放と民主化を掲げて声を上げているミャンマー市民らは、国軍を「テロリスト」と呼び始めている。事実、武器を持たずに「非暴力」で立ち向かおうとする市民に対して発砲して多くの犠牲者を出したり、不服従運動に参加する公務員やメディア関係者らを夜中に逮捕・拘束、さらには戒厳令下での死刑もちらつかせるなど、次第にその手口は過激化している。

 国軍に対しては、国内外から急速に批判が高まっており、もはや「治安」を守る部隊ではなく暴力を煽り人を殺す「テロリスト」なのだ、というのがミャンマー市民の理屈だ。ソーシャルメディア上ではもはや、ミャンマー市民らによる「国軍テロリスト」という呼称は定着しているような状況だ。

 「治安部隊」という表現に対して、ミャンマー市民からの反発に火がついた一つのきっかけが、第2の都市マンダレーでデモ隊への銃撃によって犠牲となった19歳のチェ・シンさんの死だ。歌と踊りが趣味で「エンゼル」(天使)という愛称で親しまれ、銃撃される前の姿を捉えた写真やイラストは抗議運動で掲げられるなど、象徴的な存在となったチェ・シンさん。

 しかし、ミャンマーの国営テレビでは、警察がマンダレー郊外の墓から遺体を掘り起こして検視を行った結果、チェ・シンさんの頭から摘出された銃弾は警察のものではなく、さらに警察がいた方向からは撃たれていないなどと報じた。ソーシャルメディア上では「遺体を掘り起こすなどなんておぞましい行為だ」「こんな虚偽報告を信じるものなどいない」などの書き込みが相次ぐ事態となったわけだが、日本のメディアでは、ミャンマー国営テレビが「警察が裁判所の許可を得て遺体を掘り起こし検視を行なった」と伝えたことを報道。

 すると、テレビのタイトル字幕を撮影した画面がソーシャルメディア上で一気に拡散されていき、「日本のメディアは捏造報道ばかりでフェイクを垂れ流している」「なぜ軍事独裁政権の嘘ばかりを配信するミャンマーの国営テレビを信じるの? 人殺しであるミャンマー軍事政権と同じだ」「テロリスト集団を応援するような報道しか出来ないのですか」などとあっという間に非難の声が広がってしまった。

 きちんと放送全体を見れば決して国軍の肩を持つような内容にはなっておらず、あくまで国営テレビではこう報じられたものの市民からは反発が上がっている、として右上のサイドタイトルには「犠牲者の遺体掘り起こし ミャンマー当局に非難の声」とも書かれている。

 さらに、ソーシャルメディア上での「誰がこのような(当局の)うその報告を信じるだろうか」という市民の言葉も併せて紹介されており、放送全体のニュアンスからすればむしろ市民による当局への非難を伝えている内容になっている。しかし、ミャンマーの国営テレビで伝えられた内容を引用で報じたことに対して「国軍の言うことを信じて肩を担ぐのか」とあたかも肩棒を担いでしまったかのように怒りを買う結果となった。

 今や、日本メディアへのミャンマー市民の目線は非常に厳しいものとなり、あらゆるニュースについての文言が取り沙汰され、様々な非難が止まない状況だ。

 このようにミャンマー市民の不信感が募る背景には、欧米諸国が先んじて国軍関係者らを対象にした強硬な制裁措置などを打ち出してきたなか、日本政府は協調路線を取っておらず、独自の外交を行なっていることが挙げられる。軍政時代からの「独自の国軍とのパイプ」を生かした外交が謳われ、これまで民主化を後押ししてきた経緯があるが、これほどまでに市民の犠牲が出て国際社会からも制裁を求める声が強まるなか、果たして国軍側との「対話と協力」を維持して慎重に対応する姿勢が依然として通用する事態なのか――既に多数の犠牲者が出ている緊迫した情勢下、ミャンマー市民にとっては「及び腰」「口だけで行動が伴わない」などと捉えられる結果を招いている。

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