コロナ禍で迎えた今年の春節(旧正月)は、本国中国だけでなく、中華系の人々が移民として根付いてきた世界各地の風景もがらりと変えてしまった。なかでも、東南アジアの多民族国家マレーシアは、イスラム教徒が約6割を占めるイスラム教国家だが、中華系人口が2割以上を占めていることから、意外にも春節の存在感は圧巻だ。春節は国民の祝日として指定されており、異なる宗教の人々も交え盛大に祝われるのが例年の光景だが、今年は未だかつてない「静かな」春節となった。街中には、盛大に祝えなかった「新年」のスタートを名残惜しむように、チャイニーズニューイヤーセールが最後の大売り出しの如く続き、民家の軒先でも赤い提灯がぶら下げられたまま、など微かな余韻が未だ残り続ける。
親族大集結叶わずZoomで静かに春節祝い
マレーシアでは昨年秋以降、感染者数が再び増加傾向にあったことから、今年1月、ほぼ全土に渡り再び厳格な活動制限令が敷かれ、春節の時期が迫るとさらにその期間が延長された。その背景には、春節による大規模な人の移動を避け、新たなクラスターの発生を抑えなければならないという政府の焦燥感がある。
例年、春節の時期になると街中は赤や金色に彩られ、州や国境を跨いでの「民族大移動」は中国顔負けに行われる風物詩。中華系の家庭で大ご馳走が振舞われる「オープンハウス」には、イスラム教徒やヒンドゥー教徒の友人や同僚なども分け隔てなく招かれ、幸運を呼ぶとされる柑橘類などを手土産に、赤い衣装でおめかしをして出向くのが習わしだ。しかし、今年は州を跨いだ移動は禁じられ、〝リユニオンディナー〟とも呼ばれる食事会も、親族大集結が叶わないどころか、半径10キロメートル圏内の移動のみが許されるという厳しい制限が敷かれた。
さらには「集結」できるのも親族15人までに限られ、大家族の多い中華系の人々は、昼と夜の二部生に分けるなど、なんとかして人数を分散させ、少しでも正月の雰囲気を味わうべく、苦肉の策を講じることとなった。それでも、当初は「同居家族のみ」とされていた規制が、二転三転の末に親族15人と緩和されたこともあり、10キロ圏外に住む親族とはZoomなどを繋いで、ささやかながら祝い気分は満喫することが出来たようだ。
首都クアラルンプール出身のアイビーさん(40)は、勤務先であるシンガポールからマレーシアに帰国出来ず、家族とはZoomを繋いでなんとか祝った。一人用の飾りなどでなんとか雰囲気を誤魔化したわ、と苦笑しながら、「毎年姪っ子や甥っ子の成長が確認できる春節を楽しみにしているのです。去年の今頃は数ヶ月でコロナは終わると思っていたのにーまさか今年も帰国出来ないだなんて思ってもいなかったわ。いつもならこの時期にしか食べられないご馳走を皆でつついて賑やかに過ごすの。一人ぼっちの春節なんて、もう今年だけでたくさん!」と、お一人様春節に半ばやけ気味な様子だ。