2022年12月2日(金)

WEDGE REPORT

2021年3月15日

»著者プロフィール
閉じる

海野麻美 (うんの・あさみ)

記者、映像ディレクター

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

お年玉「アンパオ」もコロナ禍で電子化加速

 マレーシアやシンガポールなど、東南アジアの華人は、中国の伝統文化を大切に引き継いでいのだが、そのうちの一つが、「アンパオ(紅包)」だ。中身は日本のお年玉とは相場がだいぶ異なり、縁起が良いとされる偶数の少額を封筒に入れて大量に準備するのが特徴だ。

 その「アンパオ」だが、急速なデジタル化とキャッシュレスの進展に伴い、少しずつ浸透し始めていた「e-アンパオ(=電子アンパオ)」が、コロナ禍で今年は一気に活況となった。離れ離れに暮らす家族や親族が、スマートフォンで簡単にお年玉を「バーチャル送信」出来るため、マレーシアの商銀最大手メイバンクによれば、今年は「e-アンパオ」の利用が大幅に増え、送金総額は15億円を超えるとの予想も報じられた。接触を伴わない“コンタクトレス”のお年玉としても、コロナ禍におけるニューノーマルのコンセプトにピタリとはまった形だ。

東南アジアの華人独特の「激しい」祝い料理も控えめに

 中国本土では見かけない、東南アジアの華僑独特の春節食文化なるものもある。「イーサン(=魚生)」と呼ばれるそれは、初めて見る者には若干衝撃的な光景に移るだろう。なぜなら、大胆にテーブル、さらには床の上にこぼしてこそ、縁起が良いと信じられている、いわば「競技」だ。

 ご馳走と言う表現が合うかは別にして、「イーサン」の見た目はまず大迫力だ。大皿の上にどっさりと盛り付けられるのは、大根、人参、きゅうりなどの大量の細切り野菜と、ポメロと呼ばれる人間の頭ほどもある柑橘の実をほぐしたもの、それに緑や赤に色付けられた揚げ麺など。それらが甘酸っぱいタレを絡めて彩り良く並べられた上に、サーモンやマグロ、裕福な家庭では鮑などの刺身がどかんと乗る。

東南アジア独特の春節のおせち「イーサン」 コロナ禍の今年はデリバリー仕様の小さなサイズの販売が目立った (Faveよりスクリーンショット)

 その大皿を親族一同箸を持って囲み、スタンバイ。親族の長の「ハッピーニューイヤー!」の号令と共に、一斉に大皿に箸を突っ込み、美しい盛り付けを派手に崩し、混ぜ合わせる。具材を箸で高く持ち上げるほど幸運を引き寄せると言われていることから、勢い良く持ち上げては落とす、それを繰り返すうちにテーブルどころか、床にまで具材はボロボロと落ちてゆく訳だが、誰も気にしない。この「イーサン」を親族一同、同僚や友人同士で集まり、共に願い事を託して賑やかに行うのが、東南アジア流華人の新年の幕開けだ。

 例年はホテルやレストランがそれぞれ趣向を凝らし、特別祝いセットとして提供される訳だが、コロナ禍の今年は一同に介しての「イーサン」ムードはもちろん消えてしまった。その代わり、スーパーなどでは家族向けの小さな「イーサン」セットの売れ行きが良いようで、それぞれの自宅でおとなしく、その「競技」が行われたようだ。

 マレーシアの華字紙「星州日報」が実施したオンライン調査では、約6割が「自分自身と周りの人々の健康のために、イーサンを避ける」と回答、「伝統に従って行う」とした2割を大きく上回った。ちなみに「マスクと手袋を着用して行う」と答えた人も1割程おり、なんとしてでも「イーサン」を行いたい層も一定数いたようだ。

新着記事

»もっと見る