ガザ市民の本音 「ハマスのイデオロギーは支持しない、でも――」
では、当のガザ市民らはこの状況をどう受け止めているのか。
筆者がパレスチナを訪れた2018年以降コンタクトを取り続けている、ガザ北部ジャバリヤ難民キャンプ出身の男性に聞くと、複雑な胸の内を吐露した。
「私が抱くハマスとそのイデオロギーに対する理解からすると、ハマスが“武装解除”を最終的に受け入れるとは、正直考えられないです。ガザの誰であっても、もしハマスが武装解除を受け入れたら、驚くかショックを受けるでしょう。
だって、イスラエルの人々は、イスラエルの武装解除に同意するでしょうか? もちろん、しないでしょう。なぜなら、脅威の下に生きる国家が、自らの防衛手段を放棄することを受け入れるはずがないからです」
実は、彼は戦争が始まって以来、一貫してハマスが2023年10月7日に起こした奇襲攻撃に反対の立場を取り、強権的な支配でガザを統治してきたハマスに対して批判的な思いを伝えてきていた。いかなる武力に頼った抵抗も支持しない、和平的な交渉をひたすら信じ、3人の子どもと妻の安全をただひたすら願う心優しい寡黙な父親だ。しかし、ここへきてハマスの武装抵抗に対して「理解」を示すような表現を使ったことに私は少し驚いた。それについて尋ねると彼はこう答えた。
「私を含め、ガザの人々の大半は、本当はハマスのイデオロギーを支持していなくとも、イスラエルの占領下で抑圧され、世界から見捨てられたと完全に孤立を感じた時、占領者に抵抗してくれるならばどのような組織でも支持するようになるという構図があるのです。しかし、これは無実の人々を殺すこと、あるいは命を奪うことを正当化するという意味ではありません。それがパレスチナ人であれイスラエル人であれ、人の命を失うことほど悲惨なことはありません。
ですから、私は決してハマスのイデオロギーに賛同するわけではありません。私たちは死を祝うことはしません。ただ、私たちが拒むのは占領――そして、この世界から見放されたと感じる屈辱なのです」
南部ラファ出身で同じく3人の子どもを持つ父親である男性は、もはや「抵抗」という言葉に拒否反応を示す。
「この戦争が起きる前までは抵抗を信じていました。しかし、ハマスが起こした10月7日の攻撃で得た結果を見てください。私たちは今、それ以前の生活がむしろ恋しいのです。10月7日以前にどうか戻して欲しい。ハマスにはいち早く武装解除してほしい。武力による抵抗では何の解決にもならない、それをこの戦争で痛いほど学んだのです」
様々な思惑がガザという地を舞台に交錯するなか、トランプ氏主導のガザ和平案の交渉は進む。ハマスの武装解除、イスラエル軍の撤退、そしてガザの戦後統治――難題が山積みの和平交渉「第2段階」が待ち受ける。そんななか、最も重要視されるべきガザ市民の心からの訴えがかき消されてはならない。
終
