2025年12月6日(土)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2025年4月18日

 また、これと整合的に円のファンダメンタルズも激変している。1980年代は「貿易黒字にもかかわらず円安」という状況があったのに対し、現在は「貿易赤字ゆえの円安」である。

 トランプ政権は日本が円安誘導を図っていると主張するが、近年の円安は日本が望んだ相場現象ではなく低金利・貿易赤字ゆえの結果であり、ある種必然である。その必然を意図的に覆す力は米国であれば相応に認められるかもしれないが、それではドル売り・円買い為替介入を一緒にやってくれるのだろうか。繰り返し論じているように、米国債の消化不良とこれに伴う利回り急騰が問題になっている状況下、基本的に米国はそれを望まないはずである。

 結局、日本が円高を企図して差し出せる政策は日銀利上げくらいだろう。10年債利回りで言えば、当時6%超だったものが、今はある程度の上昇を経てもせいぜい1.5%程度である。1985年と2025年では全く「別の通貨」であり、これを強くしようにも限度があると考えるべきである。

 常に「相手がある話」の為替市場では「円の構造的な弱さ」と円高・ドル安は両立する。4月に入ってから見られている円高はあくまでドルの自滅であり、日本が再評価されているわけでは全くない。

 米国が正気に戻ればまた円安に戻ってしまう。その程度の地力であることは留意したい。

「マールアラーゴ合意≒第二次プラザ合意」ではない

 上述したように、マールアラーゴ合意は通貨政策の話ではなく、通貨・通商・安全保障分野を対象とした包括的な政治合意を目指すものだ。その目的は米国の製造業復活と理解される。しかし、経済分野の要求内容(100年債への交換や一方的なドル安)は周知の通り、身勝手極まりない話であり、だからこそ脅迫めいた関税政策と安全保障政策がセットで必要になるという建付けである。

 日本では「マールアラーゴ合意≒第二次プラザ合意」のような解釈が先行しているが、ドル高是正ばかりに焦点を当てた論説はバランスを欠いており、視野狭窄に思われる。そもそもトランプ政権が求めているのはドル安ではなく貿易赤字縮小であり、ドル安はその手段である。

 トランプ大統領はともかく、ベッセント財務長官は手段の目的化に嵌まるほど愚かではないだろう。ドル安と米金利上昇が表裏一体となってしまった以上、ドル一強体制の崩壊に賭けない限り、ドル安の持続をメインシナリオにするのは難しい。貿易赤字縮小という目的のためには関税以外にも相手国が輸入を増やすというのが直接的かつ速効性があるだろう。

 日本においては恐らくそれがアラスカ産液化天然ガス(LNG)や農産品、そして防衛装備品という話になるのだろう。全てを為替にしわ寄せして解決が図られるとは思わない。日銀利上げの応分で円高が進むという側面は不可避としても、それが全てであるとは考えにくい。

 プラザ合意2.0やマールアラーゴ合意は包括的な政治合意であって、為替市場の取引材料を超えた視野で理解し、評価を与えるべき話と解釈したいところである。

Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る