すでに対米輸出の減少を余儀なくされている中国は、首脳会談による交渉を期待しながら、対米報復関税はやや控えめな水準に置いてきたが、関税率が大幅に引き上げられた以上、強硬な姿勢を採らざるを得ないだろう。
欧州に背を向けつつあるトランプ大統領の姿に、EUが強い懸念を抱いていることも間違いない。鉄鋼・アルミ関税への報復関税を発動したが、景気低迷からなかなか脱出できないEUにとって貿易戦争は悪夢以外の何物でもない。
当然ながら、日本もトランプ関税の嵐から無縁ではない。トランプ政権は非関税障壁などを含めると、日本は実質的に米国に46%の関税をかけているに等しいと認定。相互関税として46%のおよそ半分にあたる24%の税率を適用することにした。市場の一部には、今年9月で40年になる「プラザ合意」を意識したドル高修正(円高転換)を強引に進める可能性を危惧する声もある。
国際金融体制に
ひびが生じる可能性も
関税で思い出されるのは、1930年にフーバー米大統領が署名した悪名高き「スムート・ホーレイ法」である。当初農家を保護するために導入されたその関税は、各地域の利害を代表する政治家からの圧力で他産業にも幅広く拡大され、平均関税率は40%から60%に跳ね上がり、消費や投資が縮小して景気後退を招いた、と批判されている。
当時の米国による関税発動は他国の反発を招いた。英国は「大英帝国経済圏」を形成して経済のブロック化を図り、金本位制を離脱してポンド切り下げを実施し、輸出競争力を引き上げる戦略を採った。オランダやフランスも植民地を囲い込んでブロック化した。
こうした世界経済の急変の影響を被った典型が日本であった。重要な輸出先であったインドやインドネシアなどの市場から締め出され、経済的苦境に陥ったのである。そして世界各地では反米運動が起き、輸入制限や不買運動も拡大した。今回も各国による報復関税発動に加えて、マスク氏の言動に反発するテスラの不買運動が始まっている。
だが、トランプ大統領が世界にまく恐怖の種は「関税」だけではない。外交手法そして国際機関への対応など、その非協調性は戦後の国際秩序形成の基礎となった米国主導のリベラルな体制を自壊させつつある。それはむしろ、意図的な行為であるようにも思われる。その意味で筆者が懸念するのは、米国が世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際金融体制にもひび割れを生じさせることがないだろうか、という点である。
戦後、米国を中心に構築された国際金融安定化システムは、80年代の累積債務問題や90年代のアジア金融危機、2008年の世界金融危機などの対応に大きく貢献してきた。各国協調とは言いつつもそのリーダーシップを発揮してきたのが米国であったことは周知の通りである。世界的な金融セーフティーネットは、米国によって保たれてきたのだ。
