ヒットメーカーの舞台裏

2011年6月28日

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池原照雄 (いけはら・てるお)

ジャーナリスト

1950年生まれ。専門紙や全国紙の経済記者として自動車、エネルギー、金融、官庁などを担当。00年からフリーになり幅広い執筆、講演活動を展開。著書に「トヨタVSホンダ」(日刊工業新聞社)、「図解雑学 自動車業界のしくみ」(ナツメ社)など。

 市販の缶ビールを業務用のビールサーバーのようにキメ細かい泡を立てながらグラスに注ぐことができる。家族が自宅で過ごしながら消費する「イエナカ」需要や、アウトドアでの利用など様々なシーンを想定して開発した。5月に売り出し、8月末までに15万個の販売を計画しているが、発売2週間ほどでその計画達成の見込みが立った。

タカラトミー 携帯ビールサーバー「ビールアワー」

 缶ビールや発泡酒のプルタブを開けて装着する。350ミリリットルの普通缶と500ミリリットルのロング缶に対応している。まず、ゆっくりと液体を注ぎ、適度なところで「泡レバー」を押しながら注ぐと泡のみが出てくる。液体部分と泡が7対3という、ビール注ぎの“黄金比”が容易にできるようにした。泡は、小型モーターで小さな羽根を高速回転させながら作り出す。単4電池1本を使用し、350ミリリットル缶だと約100回使える。

 商品企画を担当したのは玩具製造部門、タカラトミーアーツのぬいぐるみライフ事業本部マーケティング課主任の前田菜々(29歳)。玩具業界では2008年当時から、そばやギョーザなどの食品を楽しみながら比較的簡単につくる「クッキングトイ」が人気を得ている。その流れとして「ビールアワー」の企画は09年に始まった。

もっちりとした泡が出る

 同社は、以前もビールサーバーを手掛けたことがあった。タカラとトミーが合併(06年)する以前の00年にタカラが「レッツビアー」という据え置き型を商品化したのだった。本物の雰囲気を疑似体験する「なんちゃってシリーズ」の一環として売り出したもので、この時もビール好きから一定の支持を獲得した。

 前田は、そうした成果も参考にしながら「なんちゃってシリーズの時よりも本格的だが手軽に使え、かつ求めやすい価格」を追求しようと考えた。雰囲気重視の同シリーズの時代と違い、クッキングトイは単に楽しむだけでなく、しっかりした作り込みの機能も求められるようになっていたからだ。

 最もこだわったのは「泡」だった。ビールの泡は炭酸ガスが逃げるのを防ぐとともに、液体部分が空気に触れないようにして味の劣化を防止する役目も担っている。あまりアルコール類は得意でない前田だが、文献やビールメーカーへの聴き取り調査などで、そうした知識を蓄えていった。

「カニ泡が出ていますね」

 ビアホールなどのサーバーは、生ビールを注ぐ時に炭酸ガスを加え、こんもりした理想の泡を立てている。このため、一時は炭酸ガスを供給する方式も検討したが、ガスのカートリッジが必要となるなど、手軽さやコストの点から早々に断念した。開発部門と協議を重ねて得た結論は、高速のかく拌装置で泡を立てる方法だった。

 動力は小型モーターとし、シャフトに小さな羽根を付けてかく拌する。試作が始まったものの、理想の泡はなかなか出てこなかった。羽根の形状や数、さらにシャフトの回転数を変えながら検証していった。羽根でなくシャフトそのものを、らせん状にしてかく拌する方式も試した。

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