中年留学日記

2011年7月15日

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 若い時からアメリカに行きたいとずっと思っていた。海外には関心があり、旅行も各地を回ったが、留学だけはなかなか実現しないまま40歳を過ぎ、その思いが一段と強くなってきた。

 いちど30代の頃、会社の留学の募集に手をあげてみたが、当時の上司に「まだ早い」などと言われて選考に漏れ、それ以来、機会は遠ざかっていた。世間的には「いい歳をして何をいまさら」と、見る向きもあるだろうが、一度むくむくと起こった気持ちはおさまらない。人間の寿命が伸びている今、まだ残りの人生、半分以上もあるかとふと思った時、若い時にかなわなかった夢をいつか実現してみたいという思いはどんどん強くなっていた。

 しかし、年も年だけに、思いを実現するには、多くの関門があった。まず第1に妻をどうやって説得するかということだった。単刀直入に持ちかけると、あっさりと断られるか、その後の説得に時間がかかりそうだったので、機嫌の良い日曜日にでも話を切り出そうと考えていた。

 たまたまちょうど妻は、海外の旅番組を見ていたので、今がチャンスと思い、意を決して話しかけた。

 「旅行でなく、現地で暮らすのも楽しそうだね」。

 「まあ、そうだわね」

 妻の返事はそっけない。私が本気で思っているのも知らず、ほとんど軽く無視の状態だ。そこで、「本気で勉強で行こうと思っているんだ」ともちかけると、妻は、「えー。何言ってるのよ」と怖い顔を向けてきた。まあ至極あたりまえの反応だ。確かにいきなりこんな話されたら誰だってびっくりする。

 「それ本気なの?」

 妻の今度はまじめな反応に、本気モードで答えると、意外にも乗ってきた。しかし、妻はあくまで現実的だった。

 「お金はどうなるの?」、「会社はどうするの?」

 矢継ぎ早に質問してきた。極めつけは「今の家や住宅ローンはどうするのよ」だった。考えてみれば問題山積。やはり先立つものはお金だった。

 しばらくすると妻は「どうにかして工面しないとね」と言い出した。実は家内も以前から海外に行きたいという気持ちを持っていたようだ。若い時からそうだったが、決断すると気持ちの切り替えは早い。

 「いざとなったら2人で返せばなんとかなるわよ」

 こうなると女は強い。私も尻込みをしていられない。いろいろ調べると、最近は銀行もよほど貸出先に困っているのか、社会人が大学院などに入学するために使うローンなどが実は結構あり、お金は何とか借りられることがわかった。毎月の飲み会を減らし、小遣いを節約すればなんとか返済できるめどがわかると、妻が俄然やる気になって来るから不思議なものだ。

 次の関門は会社だった。どう切り出し、承諾を得るかいろいろと頭を巡らせた。しかし奇跡的というしかないが、理解のある上司に恵まれ、なんとかクリアできた。留学は若い時にしかできないものだと思ってきたが、この歳でも情熱をもって扉を叩けば道がひらけるのだと思った。

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