チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年7月21日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 いまや中国経済の課題といえば不動産バブル崩壊のタイミングというのが日本のメディアの視点だが、目下中国が抱える最も深刻な問題はそこではない。

 そもそも中国の問題はかつて日本のバブル崩壊とは根本的に違う。それは銀行の果たしている役割だ。中国では融資を受けて土地を転がしている者が主流ではなく、むしろ現金で、その多くは賄賂などのお金を確実な資産に投資することだ。だから完売したマンションがいつまで経っても人が入居しないという状態が続くのだ。

 昨夏、中国が不動産への銀行融資を規制すると日本のメディアは一斉に「中国版総量規制」だと大騒ぎしたが、私は絶対に土地が急落することはないと月刊誌『Voice』で書き、そのとおりになった。カラクリは簡単で、中国で万一不良債権が膨らんでも、それはまず地方政府の隠せい債務になり、それが持たなくなれば国の隠せい債務になって貯め込まれるだけだということだ。

豚肉の値上げが止まらない

 では目下、中国が直面する最も大きな難題は何だろうか。

 これは言うまでもなくインフレだ。そして、さらに問題はこの物価上昇圧力が、中国経済の体質改善を待ったなしで迫り始めているということだ。

 実は、今年に入り中国でさまざまな分野で重要な意味を持つ数字が公開された。

 その一つは消費者物価指数(CPI)だ。直近の6月のCPIは6.4%を突破し、いよいよ政府のマクロコントロールが効いていないことを露呈した。特に酷いのは食料品で、豚肉は対前年同月比で57.1%、卵は23.3%、穀物は12.4%という急騰ぶりだ。

 今年3月の全人代(全国人民代表大会)で温家宝総理は、インフレ抑制を最優先課題と位置付けた。そして、こう発言している。

 「人民元の柔軟性向上など、あらゆる物価抑制策を採る」

 つまり、元売り介入による人民元のダブつき防止と同時に、人民元レートの引き上げによって生じるデフレ圧力さえ利用するという意味だ。これは中国では、輸出産業を殺しても国民生活を守る決意とも受け止められた。

 実は「輸出企業を殺しても」のくだりは、中国経済が従来型の発展に限界を覚え始めたことを背景にしていると考えられるのだ。

金持ちになる前に老人になった中国

 客観的な材料はいろいろある。例えば、人口ボーナスだ。

 これについても今年4月末に第6回人口調査の結果が発表され、中国がまもなく人口ボーナスを使い果たし、労働者不足に陥っていくことがはっきりしたと言われている。

 さらに、これに加えて昨年来経営者の頭を悩ましている「賃上げ要求」の動きもある。そしてダメを押すように今年から中国は深刻な電力不足に直面するのだ。

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