人口減少・少子高齢化・過疎化等が進む日本。その状況下で注目されているキーワードが、「Society 5.0」である。
Society 5.0は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」である。例えば、IoT(Internet of Things)を通じて私たちの行動がデータ化され、クラウド上のAI(人工知能)がそれをビッグデータとして集積・解析して、リアルタイムでロボットを作動させるといった未来像が描かれている。
Society 5.0に不可欠なのが情報通信ネットワーク、特にモバイルネットワークである。2019年からサービス開始予定の次世代通信規格「5G」は、現在の4Gと比べて通信速度が10~100倍になり、膨大な数の端末の同時接続も可能にし、また超低遅延を実現して、Society 5.0を支えるインフラとなるはずである。
サイバー空間への介入は
一歩間違えれば独裁国家に
今後のサイバー空間は私たちの生きる空間そのものとなり、情報通信ネットワークの重要性は飛躍的に高まる。技術的可能性や経済的関心だけでなく、公正な社会を維持し民主的な政治・行政の実効性を高めるためにも、情報通信ネットワークやサイバー空間の秩序をめぐる規範的な議論が必要である。例えばネットワークを整備・維持する負担を社会的にどのように公平に配分するかという論点は、「ネットワーク中立性」の問題として、各国で盛んに議論されているところである。
しかし現時点では、こうした検討は政府の一部や関係する企業、専門家の間で閉じた形で進められているにすぎない。その結果として、社会全体として情報や意識の格差が拡大し、建設的な議論と社会的合意を形成するのが困難になっているように思われる。
例えば政府が2018年4月、海賊版サイトへのアクセスを遮断する措置(ブロッキング)をとるようにISP(インターネットサービス事業者)を促したことは、大きな論争を巻き起こした。実はインターネットの構造上、ブロッキングは海賊版サイトへのアクセスを超えて、全ての利用者を巻き込まざるを得ない。ISPはブロッキングの前提として、全ての利用者の全ての通信の宛先を網羅的に検知して、ブラックリストと突合する仕組みを構築・運用する必要があるからである。
このような仕組みは一歩間違えれば、独裁国家で現に行われているサイバー空間の大量監視(massive surveillance)につながる。従来から政府や通信業界が、ブロッキングは憲法と電気通信事業法が保障する「通信の秘密」を侵害する極めて重大な措置であるとして、慎重な姿勢を取ってきたのはこのためだった。このたびの議論は報道も含めて、情報通信ネットワークのあり方、サイバー空間が生み出す便益とリスクの双方への目配りが十分でないまま迷走してしまった。