チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年9月14日

»著者プロフィール
著者
閉じる

阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

 小叔の次男は博打好きだ。負けたら取り返そうとしてまた賭ける。鎮でマージャンをして半月も帰ってこない。もう少しで学校を辞めさせられるところだった。小叔は何度か息子の代わりに金を返してやった。まだ3000元貸している。「俺が死んだら葬式はよその家の人にやってもらうかなと皮肉を言ってやったんだ」と小叔。

地道に貯金するかギャンブルで一攫千金か

 私はこれまでの農村調査で、たびたびマージャンや番号くじなどのギャンブルで人生が狂ってしまった人の話を聞いた。だが、こんな山奥でも、ギャンブルが一般庶民の生活に浸透しているとは思ってもみなかった。

 姑姑の息子たちは皆素朴に見えたが、次男の楊文明は博打で多額の借金を繰り返し、刑務所にまで入っている。最も多い時には嫁の実家から60万元借り、あっという間になくなったという。嫁も農村出身だが、宣威市内で服の卸売りなどの商売をやっている。実家はある程度の金を持っているのだろう。三男はやくざに殺された。

老朽化する小叔の家

 地道に働けば農村なら安く家を建てられるし、まずまずの生活ができる。小叔の一番上の兄の長男・張益民が構える小叔の隣家は10年前に建てられた2階建てで、今回私と張さんはそこに宿泊させてもらった。合わせて12部屋ある広い家で、屋内で穀類を干したり豚や牛のえさを作ったりもできるようになっている。ベッドは2階に5つ、1階に3つ、豪華なソファセットが3つ置かれ、結婚したばかりの息子夫婦の写真があちらこちらに飾ってある。建設費は6~7万元だった。

 張益民は農閑期に雲南省南部の都市で電子部品の組み立てなどをして1日60~70元稼いでいる。私たちの滞在中は奥さん1人しか家にいなかったが、彼女は朝早くから豚7頭、牛1頭に餌をやり、掃除をしたり、収穫したトウモロコシを粉にしたりとせわしなく働いていた。豚は1年に2、3頭売り、1頭あたり1000~2000元の収入になる。昆明で出稼ぎをしている息子や娘にも毎年1頭分の豚肉を用意する。息子の月給は2500元だ。農地は人から借りた分と合わせて4畝に豚の餌のトウモロコシなどを栽培している。このほか、手作りの家具を販売するなどして着実に貯金し、この大きな家を建てた。

 張益民の隣には弟夫婦が住んでいる。彼らも働き者だがそれほどやり手ではない。男の子にも恵まれなかった。娘2人のうち、1人は職業中学を卒業した後、昆明で出稼ぎをしている。昨年結婚し子どもが生まれた。もう1人は高校に通っており教育費がかかるため、主人は毎日鎮に行って日雇いの仕事を探す。主人も妻も教育を受けておらず、都市で出稼ぎをしても、たいした収入にならず、農業の合間に郷で働くしかないのだろう。11年前に親戚から数千元ずつ、計2万元を借金して家を建てた。まだ1万元残っているが、徐々に返していく予定だ。

都市のマンションから
農村に車で通う農民の“第二世代”

 張益民のように教育を受けてこなかった40代以上は、都市に移り住もうなどという考えは持っていない。出稼ぎに出ていても、老後は貯金して建てた農村の家でゆっくり暮らすことを楽しみにしている。しかし、高校や大学を卒業した次の世代の多くはそれでは飽き足らない。都市に移住することを夢見ている。

⇒次ページ 「農村から離れて開放されたい」

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る