2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年9月14日

 こんな風に家族や親戚が助け合い、落ち着いた暮らしをしている張村の人たちだが、若い世代が目指しているのは農村ではなく都市なのだ。楊傑は、「農村を離れることが我々にとっては解放されるということだよ」と話していた。

中国の農村衰退で、世界の食糧価格が高騰する

 若い世代が農村に戻らなくなると中国はどうなるのか。他の多くの国が経験してきたように、都市の過密化と農村の高齢化が急速に進んでいくのだろう。しかし、中国が特に考えなければならないのは、13億以上もの人口を支える食糧の確保である。人口大国が食糧を輸入に頼るとなると、国際市場において食糧価格が上昇し、世界全体が打撃を受ける。食糧不足が加速すれば中国の貧困層はますます窮地に追い込まれる。中国政府はなんとしても耕地面積の減少を食い止め、農村経済を活性化しなければならない。

土地登記は「農村」のまま都市化が進む沾益県

 村での調査を終え、張さんの弟が住む曲靖市に一泊した。曲靖市は雲南省で省都・昆明の次に大きい都市である。張さんの弟は曲靖市中心部から車で半時間ほどの位置にある沾益県出身の奥さんをもらったが、彼女の実家のある農村は農地も宅地もすべて収用して区画整備し直し、3階建ての住宅が並ぶコミュニティーを建設中だ。張さんの弟は、奥さんの実家のコネで2003年にこの村に土地を購入した。地価は、購入当時の2003年に2万元だったのが、今では20万元に跳ね上がっている。奥さんの実家は立ち退き料として80万元を受け取った。このような地域は不動産会社などと連携して、土地の登記を「農村」にしたままで宅地や商業用地を開発している。私が懸念するのは、こうした方法の都市化によって、統計上と実際の耕地面積に大きな乖離が生じているのではないかということである。

 農業の衰退を食い止めるには、土地管理の厳格化はもちろんのこと、農村を生活空間としても、働く場所としても魅力あるところに変えていかなければならない。今回の旅でそう実感させられた。

◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信北京特派員)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)
◆更新 : 毎週月曜、水曜


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