2024年4月18日(木)

経済の常識 VS 政策の非常識

2011年9月21日

 効率性はいついかなる場合にも重要だ。東日本大震災の惨状を見れば、誰でも被災者を助けたいと思う。しかし、どうしたら効果的かの視点がない援助策は、税金の無駄遣いになるだけでなく、被災者の助けにもならない。

家賃補助に月20万円?

 菅総理が、「お盆までには希望者全員が仮設住宅に入れるようにする」と言ったことを、野党は、「総理がまた思いつきでものを言った、実現できなければ絶好の攻撃材料だ」と喜んでいたようだが、被災した県は、仮設住宅の必要戸数を何度も下方修正している。結局、必要戸数は5万2352戸で、着工予定及び着工済み戸数の合計は8月5日までで5万352戸(完成済みは4万4748戸)となって、菅総理の約束はほぼ実現するようだ(国土交通省住宅局「応急仮設住宅着工・完成戸数の推移」8月5日)。

 待望されていた仮設住宅だが、入居率は岩手が80.7%、宮城が86.7%、福島が58.4%である(朝日新聞7月7日付による)。市町村単位でみると3割台のところもある。仮設住宅が通勤・通学に不便な場所にあること、賃貸住宅への補助金が出ているからだ。

 仮設住宅は、撤去費まで含めると一戸500万円かかる。仮設住宅には2年しか住めないから、月20万円以上の家賃補助をしているのと同じである。月20万円払えば、東京でも立派なマンションにすめる。地方なら5万円でもきちんとしたアパートがある。家賃補助の方がずっと良いではないか。多くの被災者が、仮設住宅より家賃補助を希望しているのは、その方がずっと暮らしやすいからだ。

 仮設住宅の面積は30平方メートルに過ぎないから、坪50万円以上のコストがかかっている。坪60万円出せば、普通の家が建つ。自宅が全半壊した被災者の新しい住宅の頭金として500万円渡した方がずっと良いのではないか。住宅ローンの頭金というメニューがあれば、多くの人がそちらを選ぶだろう。新たに恒久住宅を建てるのでは間に合わないという批判があるだろうが、仮設住宅でも、5カ月弱たった8月5日時点で、まだ4万4000戸しか建っていない。普通の家も、3カ月で建つ。間に合わないというのなら、最初に住宅頭金を受けた人は、6カ月の間、他の家族を無料で下宿させるとしてはどうだろうか。150平方メートルの普通の家に2家族で住む方が、30平方メートルの仮設住宅に住むより快適なのではないか。

 不便なところにある仮設住宅の人気がないにもかかわらず、宮城県では、仮設住宅を退去した被災者のために、1.5万戸の災害公営住宅を整備するという(県の震災復興計画)。岩手県でも、同じ事業を県の予算に盛り込むことを検討している。災害公営住宅も、人気のない仮設住宅の二の舞になるのではないか。

高台移転より効率的な方法

 政府の復興構想会議で提案されている住宅の高台移転も巨額の予算が必要だ。山を削って高台に住宅地を造成し、低い土地を嵩上げするには、1戸2000万円かかる。三陸の街でこんな高い宅地を買う人はいない。結局、政府は9割を負担するらしい(日本経済新聞7月18日付による)。すると、被災家族に1800万円渡すのと同じである。新たに造らなくても、高齢化と過疎化で余った土地がある。


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