シャフラー社はドイツの自動車OEM、アフターマーケットのサプライヤーであると同時に、デジタル化製品、産業用ロボットプラットホーム、EVコンポーネント、航空機などの産業部品などを提供する企業だ。しかし今年のCESではそうした範疇を超えた独自のモビリティに対するアイデアを発表し話題となった。
まずシャフラー社が今回のCESでワールドデビューさせたのが、「バイオ・ハイブリッド」と呼ばれる個人用の都市型モビリティ。電気モーターのアシストにより時速25キロの速度が出せる。今回は商業用のカーゴバージョンと個人用の都市での移動手段バージョンの2つが公開された。コンパクトな設計で、通常の自転車と幅はそれほど変わらないため、自転車専用道路でも走行することが可能だ。
カーゴバージョンは都市中心部の物流にも役立てることができ、個人用バージョンは通勤通学の足として活躍するほか日常のショッピングなど、気軽に乗れる小型モビリティとなる。どちらも2020年には発売開始の予定だという。
もうひとつ注目されたのは「シャフラー・ムーバー」「という最大4人乗りのEVプラットホームだ。デモとして展示されていたのはベースとなる部分だが、これに屋根をつければ通常の小型車のようにも使えるし、小型シャトルとしてライドサービスに利用されることを想定されたプラットホーム。
特徴は独自の技術により90度に曲がるステアリングを備えていることで、これにより車は前後だけではなく真横に移動できる。シャフラー社によると「横に移動できることで小さなスペースでも出入りしやすく自由度が高い」という。
現状ではこのプラットホームはジョイスティックによって操作されている。これは同社が「スペースドライブ」と呼ぶワイヤーによる車のコントロールシステムの成果で、従来の機械的なコントロールシステムを電気ケーブルによる電子パルスに置き換えた。そのためゲームのようなジョイスティックで操作が可能となっている。また将来には自動運転システムの導入も見据えられており、地域の公共交通と連携したオンデマンドの自動運転タクシーとして利用出来る可能性が高い。
さらにシャフラーでは「4eパフォーマンス」というコンセプトカーも展示していた。シャフラー社はフォーミュラレーシングにも参加する高いレーシング技術を持つ企業だが、その技術を生かしたフォーミュラeモーターを用いたEVコンセプトだ。フォーミュラeモーターは同社のABTシャフラーFE01フォーミュラEレースカーに使用されているもので、4つのモーターがもたらすパワーは実に880kW(1200hp)という高いものだ。
この車によってシャフラーが伝えたかったのはEV社会の到来はドライブの楽しみを損なうものではない、ということ。EVであってもハイパフォーマンスの走りが楽しめる、ということなのだ。
シャフラー社が示したのは、EVが普及すれば自動車業界の地図も大きく塗り変わる、という現実ではないだろうか。シャフラーはサプライヤーであり自動車メーカーではない。しかし4eパフォーマンスは「市販できるレベルに限りなく近いコンセプトカー」であり、バイオ・ハイブリッドは実際に市販が予定されている。
何よりも注目すべきはシャフラー・ムーバーのこれまでになかった新しいコントロールシステムと横に90度曲がるステアリングによってもたらされたコンパクトな動きだろう。
ある程度の技術を持つ企業ならば、EVや自動運転車両の生産に自動車メーカーのライバルとして参入することが出来る。しかも自動車メーカーが作るEVに性能面でもひけを取らない完成度の高いものや、イノベーションを加えたものを作ることが可能なのだ。
EVは走る家電とも言われ、現在も新たな新規企業が続々と参入している。電動アシストの自転車技術を応用した都市型の商用車両に関しても、ロサンゼルスオートショーでVW(フォルクスワーゲン)が発表して話題となった。自動車メーカーも都市のサスティナビリティを実現するため、これまで作ってこなかった製品を手がけるようになった。今後ますます業界の再編が進み、思いがけない企業が思いがけない製品を作る時代が到来しそうだ。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。