WEDGE REPORT

2019年2月9日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

マニラの裏通り 昭和30年代の匂いが。今日よりも明日はよい暮らしが

 海外で仕事をすると必ず、フィリピンの同僚を得る。英語を話し、そこそこ仕事もでき、性格も悪くなく、給与も日本人ほど高くはない。だから日本企業はこぞって彼らを雇う。ベネズエラにいたときもそうだ。ちょうどドゥテルテ大統領の政権が始まったころで、フィリピン人の同僚数人は、全員が彼を支持していた。

マニラで浦島太郎になる

 私が以前フィリピンを訪れたのは30年以上も前のことだ。そのときは、空港は薄暗く目つきの良くない有象無象が跋扈し、迎いの車を手配していない場合は、ゴールデンタクシー以外は乗るなといわれていた。今のベネズエラと同様に、道中金品を巻きあげられたり、誘拐されたりせずに、安全にホテルに着くことができれば、見つけものだった。しかも私はその滞在中にある保養地で、当時武装闘争を行っていたモロ・イスラム解放戦線(Moro Islamic Liberation Front MILF)の資金源と思しき、金鉱を持つ年配の男性と秘密裏にカード博打をやったことから、ある理由で10日ほどマニラ郊外のマロ―ロスに軟禁された。

 いい思い出はない。

 ところが、昨年夏から年初にかけて4度ほどフィリピンを訪れてみると、様変わりも著しい。空港は狭いとはいえ整理され、中で不安に駆られるようなことはない。ホテルまでの道中を心配する必要はない。それどころか、ほぼ東南アジア全域に広まっているGrab(配車アプリ)を携帯にダウンロードすればタクシーも呼べる。

 街中でも、不穏な空気を感じない。以前はバーに警官や軍人が入って来ただけで、賄賂でもとられるのかと、フィリピン人の友人とともに緊張したものだ。今、彼らは以前に比べてずっと信頼できる存在になっている。

 暮らしやすくもなった。停電や断水はほぼ皆無だし、町中にあったサリサリストア(=なんでも売る小さな雑貨店)は、セブンイレブン、ミニストップ、ファミリーマートなどのコンビニエンスストアーに変貌し、日本食レストランもあちらこちらにあり、味もさほど日本と遜色がない。うんざりする車の渋滞を除けば、マニラに限っていえば、東京にいるのとさほど変わりはない。

グリーンベルトにある近代的なカトリックの教会

 マカティにある定宿そばの、椰子の木々や熱帯の緑の植物が繁茂するにある巨大ショッピングモール「グリーンベルト」は、空気もよくほっと息がつける。信心深ければ中のカトリック教会を訪れることもできるし、フィリピン史を中心に展示しているアヤラ博物館も一見の価値がある。レストランも、夥しい日本料理他、フィリピン料理、ベトナム料理、中国料理、スペイン料理、イタリア料理、地中海料理、ワインバー、カフェバーなど無数にある。金満国家、カタールを凌ぐ勢いだ。

 クリスマス近くになると、どこもかしこも賑わっていて、行きつけとなったライブハウス「Café Habana」も超満員である。それに比べて同時期に訪れたマイアミビーチは、1、2の店を除いて哀しいほど閑古鳥が鳴いていた。まるでリーマンショックあとのマイアミだ(筆者は10数回マイアミを訪れている)。

 うーん、文明と繁栄は大きくアジア、とりわけ東南アジアに移っている証拠かもしれない。しかも米国と中国の争いは、投資や貿易でフィリピンに漁夫の利ももたらすことだろう。

世界の経済界はドゥテルテ大統領を信任している

 ドゥテルテ大統領は、その強権と暴言から欧米諸国のマスコミや政府から批判されることも多い。とりわけBBCは麻薬戦争による人権無視を非難し、それはイギリス政府にも反映されており、戦略物質や武器のようだとみられるものに対する輸出については、規制をかけている。

 けれども、フィリピンの友人は全員が全員ドゥテルテを強く支持している。私には彼らの気持ちが痛いほどわかる。私は、腐敗と犯罪の巣であった頃のフィリピンを知り、かつ治安が悪く残忍な麻薬カルテルが跋扈する途上国に住むことが多かったのだ。とりわけ長期間スペインの植民地だった国の政府が腐敗を助長するのではなく、本気でそれを取り締まることは、めったにない。だから、この機会を逃す手はない。

 しかも、GDP成長率を調べてみると、2012年から18年にかけて毎年6%を越えている。IMFのデータではあるが、2015年の6.07%から、ドゥテルテ政権後は6.88%(16年)、6.69%(17年)、6.52%(18年 速報値)と成長はやや加速している。

 海外投資も翳りがない。フィリピンは、国外からの直接投資(FDI)の純流入額が、2017年に100億4900万ドル(約1兆1086億円)と過去最高を更新した。

 それどころか、USニューズ&ワールド・レポート誌が、世銀のデータを基に評価・分析したところ、2018年に世界で投資するのに最も適した国の第一はフィリピンだ、としている。これはミンダナオのような民族紛争の激しい島を除いた、とりわけマニラ圏に限ったことであろう。

https://www.businessinsider.com/us-news-best-countries-to-invest-in-now-2018-3

 もちろん、格差や貧困やテロ、犯罪はあるとしても、東南アジアの病人と言われたころに訪れている私や、50代~70代の層でフィリピン駐在経験のある人々には、今のマニラは別世界である。フィリピン駐在経験のある義父に「マニラは安全だし、東京と変わらない」といっても全く信じてもらえなかった。

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