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2018年10月24日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

御託が神託になるとき

 私は目を疑った。南米の産油国ベネズエラのインフレ率は、年内に100万%に達する――。そんな記事が今年7月末、日本の新聞各紙に踊った。国際通貨基金(IMF)の予測だという。根拠は全く示されていない。私にいわせれば、フェイク・流言飛語の類である。

(siraanamwong/Gettyimages)

 ところがまるでそれが正しいかのように国内外の主要なマスコミが引用している。
何度も引用していた日本経済新聞の記事の一部(2018/7/26付朝刊)は次のとおり。

ベネズエラ100万%インフレの脅威(上)
 ハイパーインフレにより、年内にも物価上昇率が年率100万%に達することが予想される南米ベネズエラ。国際通貨基金(IMF)は第1次世界大戦後のドイツなど歴史上の事例になぞらえて「経済と社会の危機」と評した。世界有数の産油国は今、貨幣経済崩壊の瀬戸際に立つ。

また最近でさえ東洋経済オンラインでハーバード大学教授のケネス・ロゴス氏(IMFの元チーフエコノミスト)がまるでそれが正しいかのように引用している(2018/09/30)

地獄のようなベネズエラに翻弄される周辺国、インフレ率はなんと100万%に達する見通し
政権は国内に世界有数の石油資源を持ちながら、それによってもたらされた富を浪費した。ベネズエラの国家収入は急減し、インフレ率は100万%に達する見通しだ。本来なら豊かでいられたはずの国で、何百万もの国民が飢餓に苦しんでいる。

 他にロイター、bloomberg、三菱UFJリサーチ&コンサルティングなど夥しい内外の報道、研究機関や学者がIMFの発表に飛び付き、記事にしたのである。

 ところが、10月10日には100万%どころか、来年のインフレ率は1000万%というIMFの見通しが各紙に掲載された。

ベネズエラ、来年の物価上昇率は1000万%に=IMF見通し(朝日新聞デジタル)
[9日 ロイター] - 国際通貨基金(IMF)は9日公表した最新の世界経済見通しで、ベネズエラの来年の物価上昇率が1000万%に達し、現代史における最悪クラスのハイパーインフレーションが一段と加速するとの見方を示した。
 今年の物価上昇率予想も、7月時点の100万%から137万%に引き上げた。ベネズエラ経済は、2014年の原油価格急落で補助金や価格統制などを特徴とする社会主義体制を維持できなくなり、悪化の一途をたどってきた。IMFは7月、同国のハイパーインフレーションを1923年のドイツや2000年代のジンバブエに匹敵する深刻さだと指摘している。

 思い出すのは、ナチスドイツの天才デマゴーグ パウル・ヨーゼフ・ゲッベルスの言葉である。

「十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう」

 ゲッペルスの予言のように、「ベネズエラのインフレ率100万%、1000万%」が世界中に広まり、事実として定着したようである。けれども、このIMFの予測はインフレバスケットに何を入れているのか全く不明である。だが、人は世銀だとかIMFだとかの権威ありそうな機関の御託を神託として受け取る。

 なお、誤解してもらいたくないが、記事を書いた記者や掲載したマスコミを非難するのが意図ではない。人間の陥りやすい陥穽の例として上げ、権威を信じることの危うさに警鐘を鳴らしたいのである。

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