2024年4月26日(金)

WEDGE REPORT

2018年10月24日

経済学者のインフレ予測はあてにならない

 筆者がベネズエラに滞在していた2016年当時、トウモロコシの粉1㎏当たりの値段は1年間で19ボリバルから177ボリバル、闇価格では1500ボリバルまで上がり、鶏肉も1㎏当たり65ボリバルが850ボリバル、闇価格では3000ボリバル以上となった。

 その当時からインフレ率は1000%を越えていた。だが多くの海外の経済学者はこの国のインフレ率を100~200%としていた。

 とりわけ、ハイパーインフレにかかわる経済学者のインフレ予測などあたるわけもない。その実情を経験したものにしか分からない倒錯した世界であり、たとえばハイパーインフレとは外貨を持つ人間には、往々にして超物価安のことなのだ。私はインフレ率2万%のボリビア(85年~86年)、5000%のアルゼンチン(88年)、1000%のブラジル(88年)に滞在していた。私の経験即からすると、ベネズエラのハイパーインフレは本来ボリビアと同じ2万%程度(最高でも10万%)の中に収まるはずだ。

 そこで現地にさっそく(7月に)IMFの予測インフレ率100万%について生の声を聞いてみると、「途方もない数値なので話題にもならない」とのことである。
このIMFの予測には別の意図があったに違いない。

IMFの裏の意図は何か? なぜこの時期に八百大(代)言を放ったのか? 

これも前出のゲッぺルスの言葉を引用するとより理解しやすいだろう。

 「プロパガンダの秘訣とは、狙った人物を、本人がそれとはまったく気づかぬようにして、プロパガンダの理念にたっぷりと浸らせることである。いうまでもなくプロパガンダには目的がある。しかしこの目的は抜け目なく覆い隠されていなければならない。その目的を達成すべき相手が、それとまったく気づかないほどに」

 ではIMFの目的は何か。ひとつは、世間の注目を浴びることである。1万や10万ではいけない。100万、1000万という途方もない数値なのだ。マスコミならず経済学者も飛びついてくる。それは大成功した。

 ふたつめは、この発表が世界に広まることによる効果である。折しもベネズエラは8月20日にデノミ(通貨単位の5ケタ切り下げ)を計画していた。時にデノミがインフレを収める方策のひとつとして成功することがある。私が滞在していたボリビアの場合はそうだった。1987年に100万分の1のデノミを実行し、他の政策と相まってではあるが、その後ハイパーインフレは収まった。

 IMFはベネズエラのデノミを成功させまいと先手を打ったのだ! 世界中にインフレ率100万%が広まれば、今もほとんどない海外の投資意欲は一層低下するし、対ドルの現地通貨価値は一層下落する。インフレとは人々の期待値により左右される。デノミを実施しても効果はなく、インフレ率はそのままか、あるいはさらに上昇する。

 では、デノミの前後でインフレはどうなったのだろうか?


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