1200万円の奨学金を踏み倒し?
例えば、進学制度の在り方。スウェーデンでは高校進学や大学進学の際、日本のような入試を行いません。では何を基準に審査をするのかというと、それぞれ中学の成績、高校の成績が評価対象になるのです。そして、もちろん優秀な成績を取れば取るほど、希望のそして人気の学校に進学ができるので、後々も就職に有利になります。
こうして一つの成績がその後の人生を大きく左右するということは、一般的に語学力のせいで授業に遅れをとってしまいがちな移民家庭の子供達には大きなハンデとなります。また、中卒、高卒の親をもつ家庭に育つ子供達の間にも成績が優れない傾向があり、そのために、実際は家庭の事情によって学力や進学率に大きな差が出ているのです。統計によると、近年、高学歴家庭の子供の5%に対して、移民家庭、低学歴家庭の子供それぞれ25%、36%もが成績を理由に高校進学を断念しています。(Uppdrag granskning, 2010年10月31日放送)
奨学金制度にも、落とし穴が目立っています。ここ数年海外の教育機関に進学・留学する学生が急増しており、その際には学業援助の理由でさらに多額の貸与金が与えられるのですが、結果、なんと返済義務額が100万kr(約1200万円)を超える人がざらではなくなっているのです。これは簡単に返済しきれる金額ではありませんし、CSN自身もこの金額には不安を抱いています。されに深刻なことに、最近は返済自体を怠る人も増えているようです。例えば100万krといった多額の借金を抱えたまま、就職などの理由で海外に出て行き、そのまま故意か不本意か消息不明になってしまう人もいます。信頼関係が崩れかけている今、個人情報の把握に一層力を入れ、さらに新たな法律での強力な取締りをすべきだという声があがっています。
教育制度改革で留学生激減か
外国人の目から見て私が特に残念に思っているのが、ここ数年の教育制度改革です。2010年には成績種類別に大学の入学選考枠が分けられることになり、海外の高校成績を持つ学生の枠がグンと縮小してしまいました。また、今年の秋からEU圏外からの留学生には学費制度が導入されることになり、それまで無料だった学費が一気に日本やアメリカ並みになってしまったのです。その結果、2011年秋学期の外国人入学・留学申請者数は2010年同時期に比べて86%も激減しました。授業料という国の大きな収入源を無視できないという政府の決定も理解はできますが、学費がかからないからという理由で来る留学生が事実大半だったこの国で、これは当然の結果と言っていいでしょう。(VHS調査)
この外国人の大学入学枠や学費制度は多くの国では従来のことですが、そうでなかったスウェーデンにおいての改定となると私達にとっては無論厳しい現状となりますし、貴重な人材を逃すことにも繋がるという点では、スウェーデンにとってもネガティブな影響が出るのではないかと思います。
ここに挙げた以外にも、成績の付け方や教師の質など、教育の場で議論されている問題はまだまだあります。しかし、100%完璧に物事が進まないのは無理からぬ話で、どの国にもそれぞれの課題があるもの。高福祉で公平な教育制度という点においては、スウェーデンは最も進んだ国の一つであることに違いありません。スウェーデンの学生がいかに勉強しやすい環境の中にいるか、こちらで学生になってみて実感しました。