2024年4月17日(水)

Wedge REPORT

2011年10月6日

 どのメーカーの製品も機能はてんこ盛り、外観も似たり寄ったり。ユーザーから見た魅力は薄れ、製品1点あたりの規模も小さく、コストは下がらない。そうこうしている間に、価格競争力で勝る韓国、台湾、中国勢の攻勢に負けた。技術者でも、経営学のプロでもないジョブズ氏だからこそなのか、アップルは徹底したユーザー視点で、製品やサービス、会社のあり方を見つめ、会社にとってのムダだけでなく、ユーザーにとってのムダやムリを省いてきた。そしてアップルの製品は、製品そのものを売ると同時に、「それらの製品でできること」を売っている。

数年先まで描かれているロードマップ

 iPhoneやiPadも含めたデジタル機器のハブ(中核)であり続けたパソコン「マック」がハブでなくなると判断するや否や、ジョブズ氏は「パソコンはもはやデジタルライフのハブではない。クラウドという新しいハブにつながる一つの機器でしかない」とあっさり宣言し、自らが「マッキントッシュ」で開いたパソコン時代の扉を自ら閉じた。

 創造と破壊を繰り返してきたジョブズ氏。最大の「製品」はアップルそのものだろう。そのアップルを託した相手はクック新CEO。クック氏は、IBMやコンパックを経て、98年にアップルに入社した。創業者ながら、自らが招いた経営者、ジョン・スカリー氏と対立して一度はアップルを事実上追放されたジョブズ氏が、経営不振に陥ったアップルに復帰し、暫定CEOとなったのが97年。翌年にジョブズ氏の部下となったクック氏は、ジョブズ氏が破壊し、再創造したアップルの歩みをジョブズ氏とともに歩み、つぶさに見ながら、支えてきた。

 アップル社内の関係者によると、ジョブズ氏は「数年先までのロードマップを描いていた」という。当然、クック氏もそのビジョンや計画を共有している。「業績や新製品開発の面では、向こう数年はオートクルーズ(自動運転)でも大丈夫」(株式市場関係者)という安心感があるのはそのためだ。

 クック氏は「オペレーション(事業)のプロ」といわれている。ここ数年のヒット製品の立ち上げを指揮したのは、実質的にはクック氏だといわれ、これまで3回にわたるジョブズ氏の病気療養でCEO業務の代行をつとめた。安定感は実証済みだ。

 アップルは一足飛びに先を急ぐことはしない。機能をてんこ盛りにしたり、製品を最初から大量に放出して製品の価値を下げて商機を失うようなことはしない。「技術的にできるものを作るのではなく、そのときに作るべきもの、売れるものを作る」スタイルだ。携帯音楽プレーヤーを作り変え、音楽流通の仕組みを変え、スマートフォンを作り変え、アプリケーションソフトを世界的に流通させる基盤を作った。タブレットでは、それまでネットブックとよばれていた低価格パソコンを色あせたものにし、出版やネット閲覧のあり方を変えようとしている。

 パソコン時代の終焉を宣言すると同時に、パソコン用OSの最新版はスマートフォンなどと連携しやすいように作り変え、アップルIDさえあれば、どの端末でも面倒な手続きなく、音楽や映画、電子書籍、テレビ番組、アプリケーションソフトを買える仕組みを広げ続けている。ジョブズ氏が目指していた、次のフィールド(世界)は、iPhoneやiPadに使われているOSの「iOS」を使って、テレビを再定義するのではないか。米IT情報サイトではこのところ、そういう見方が強まっている。

 スマートフォンで対決するグーグルがソニーなどと組んで、昨年、ネット経由で動画配信を受けたりできるグーグルテレビを出したが、売れ行きはいまいち。テレビメーカーはどこも機能面での差異化の難しさと価格競争に苦しんでおり、液晶パネルを購入して組み立てるパソコンに似た事業構造のなかで、脱出の道を見いだすのは容易ではない。


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