オトナの教養 週末の一冊

2019年2月15日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

 覚せい剤や大麻といった違法薬物の使用や所持で逮捕された有名人がワイドショーなどの恰好のネタとなる。その際に想起されるイメージは廃人やゾンビのような姿ではないだろうか。しかしながら、マスメディア関係者も含め、多くの人は一生のうちに一度も生の薬物依存症患者に会うことはない。かれらの実態とはいかなる姿なのか。『薬物依存症』(ちくま新書)を上梓した国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・精神保健研究所薬物依存研究部部長兼依存症治療センターセンター長に、薬物依存症者の実態や治療、政策的な問題点などについて話を聞いた。

(LeszekCzerwonka/iStock/Getty Images Plus)

――少し前に人気ドラマ『相棒』に登場した薬物依存症の「シャブ山シャブ子」が、薬物依存症者の実態とかけ離れているとして「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」から抗議を受け問題になりました。しかし、多くの人にとって特に覚せい剤を使用している人たちはゾンビのようなイメージが共有されています。実際には、どんな人たちなのでしょうか?

松本:多くの人は、覚せい剤を乱用している依存症の患者さんというとゾンビ、もしくは暴力団員のイメージを持っているかもしれませんが、実際に診察に訪れる患者さんでそのような人はほとんどいません。外見的にはむしろきちっとした服装をしている方が多く、特に最近はスタイリッシュな人が少なくないですね。

 それだけいつも人から自分がどう見られているのかを気にしている人たちなのでしょう。 だからこそ、明らかに見下されているなと感じれば、挑戦的な態度を取る人もなかにはいますが、ごく普通に接すれば、丁寧で優しく配慮のある人たちがほとんどです。

 ここ20年ほどセクシャリティマイノリティの患者さんが増えているのですが、かれらの多くは高学歴で高度な専門職に就いています。セクシャリティマイノリティでない患者さんにしてもそうですが、共通しているのは、ワーカホリック気味の人が多いということでしょうか。

 それはわかる気がします。というのも、人間にとって一番気持ちの良い経験は、人から褒められることだからです。不遇な家庭環境で育ったり、学校時代にいじめを受けたり、パッとしない学生生活を送った人のなかには、仕事で褒められ、給与が増えることで、初めて人から自分が認められたと感じる人がいます。そして、もっと頑張ろうと思う人がいます。しかし、体力には限界があります。そこで覚せい剤を使い、仕事をさらに頑張ろうとして依存症になる人もいるのです。

――覚せい剤を使うとそんなに頑張れるものなのでしょうか?

松本:個人差があります。覚せい剤を使用してもまったく効かない人もいますし、最初からすごく良かったという体験をする人もいます。いずれにしても、1回の使用で幻聴や被害妄想を体験するかといえば、そんなことは滅多にありません。割と多いのは、眠れなくなったり、食べられなくなったりするという体験です。それを自分にとって好ましい効果だと感じた人は、繰り返し使うようになります。覚せい剤は5~6時間効果が持続し、集中力が増し、少なくとも初期は仕事のパフォーマンスが良くなった気がするでしょう。ただ、その反面、効果が切れると疲労感がひどく、眠りすぎなほど寝てしまう。要は、「元気を前借り」しているようなものです。

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