復活のキーワード

2011年11月17日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、東京証券部、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務める。11年からフリーに。熊本学園大学招聘教授。近著に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)。

資源に乏しく、国民の勤勉さで工業化を成し遂げてきたスイスと日本だが、
通貨高の中で、その違いが“金融業”において鮮明になった。
日本の金融は国内資本が不足した時代の債務国型金融のままだ。
スイスに習い、債権国型金融へ転換して日本の金融資産を活かすときだ。

 世界的な金融不安が広がる中で、日本円は“逃避先”として買われ、円高が止まらない。もう1つ同じように買われている通貨にスイスフランがある。急激に円高が進んでいるのと同様、スイスフラン高も著しい。さぞかしスイス経済は大変だろうと思いきや、スイス在住の友人に聞くと、景気は総じて悪くないと言う。

 もちろん、通貨高はスイスの主要産業である観光や輸出にとって大きなマイナス。だがそれ以上に金融業が通貨高の恩恵を受けているというのだ。スイスの金融はプライベート・バンキングに代表される資産運用業務が中心だが、サブプライムローン問題やリーマンショックで激減していた「預かり運用資産」が急回復しているという。

 例えば銀行大手クレディ・スイスの場合、2008年末には一年前に比べて24%も預かり運用資産が減少したが、09年、10年と増加。新規の受託資産も増え続けている。サブプライムローン問題では、もう1つの銀行大手UBSがスイスの国家予算を上回る規模の不良債権を抱え、中央銀行に事実上救済されるところまでスイスの金融は追い詰められたが、それが早くも復活しつつあるのだ。

 スイスへの資金流入は、ユーロ安の恩恵で輸出主導の好景気に沸いているドイツなどからのものが多い。ドイツ人など外国人がチューリッヒ湖畔沿いの高級住宅などを購入する例も増えており、不動産価格も上昇傾向にある。

 この様子は、スイスの国際収支にもはっきり現れている。10年の貿易収支の黒字は135億スイスフラン(約1兆1340億円)と前年に比べて19%も減ったが、経常収支の黒字は859億スイスフラン(約7兆2150億円)と40%も増えた。スイス経済の輸出依存が大幅に薄れ、海外投資からの収益など所得収支が大きくなっていることを示している。

 この点、同じ通貨高にある日本の状況は大きく違う。資源に乏しく、国民の勤勉さで工業化を成し遂げてきたスイスと日本の収支構造はもともと似ていたのだが、その違いが鮮明になった。日本は8月の貿易収支(速報)が7753億円の赤字になった。貿易赤字はLNG(液化天然ガス)などエネルギー輸入費が増えたためだが、その分、経常収支の黒字も小さくなっている。「円高は悪だ」とする余り、円高を生かすことができる産業の育成を怠り、産業構造の転換が遅れたのだ。その最たるものが金融業だ。

 日本の金融はいまだに「カネ貸し」のビジネスモデルから脱却できていない。全国津々浦々に支店網を張り巡らし、小口の資金を集めて回る。それを大企業などに貸し出し、金利差で儲ける商売だ。戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、国内に資本が不足している時代には正しいモデルだったと言える。いわば「債務国型金融モデル」のままなのだ。

 今、銀行の経営者に聞くと、異口同音に「企業の資金需要がなく、貸出先が見つからない」と言う。集めた預金のうち貸し出しに回っている率を「預貸率」と呼ぶが、全国平均で70%。中小金融機関の中には60%を切るところもある。つまり、集めても貸し先がなく、結局は国債投資に回っている。

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