中東を読み解く

2019年4月4日

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 トルコのエルドアン大統領が窮地に追い込まれている。このほど実施された統一地方選挙で、与党候補が首都アンカラ市長選で敗れ、最大都市イスタンブールでも暫定結果ながら敗北するという激震に見舞われた。その上、ロシアの地対空ミサイル導入をめぐり、米国から最新鋭戦闘機F35の部品供給を停止されてしまった。内憂外患のエルドアン氏はどんな手を打つのだろうか。

(AP/AFLO)

開票への“介入”も検討?

 現地からの報道などによると、異変が起きたのは開票日の3月31日の夜9時頃のことだった。それまで順調に開票状況を発表していた選挙管理委員会が突然沈黙したのだ。反国営のアナトリア通信も同様に開票発表を停止した。これについて選挙の監視をしていた民間団体の当局者は、エルドアン氏の「公正発展党」(AKP)を中心とする与党連合の敗北が濃厚になり、開票への“介入”が検討されたため、との見方を示している。

 過去の選挙でも開票の際の不正操作が取り沙汰されており、今回もそうした疑惑が浮上したということだろう。両市の市長ポストは1994年からAKPとその前身の政党が維持してきており、予想を超える劣勢に与党連合が衝撃を受けたのは間違いない。

 最終結果によると、アンカラでは野党候補が4ポイントの差をつけて当選。イスタンブールでは、野党候補と与党候補だったエルドアン氏の側近、ユルドゥルム元首相が共に勝利宣言をするという大激戦になったが、暫定結果では僅差(約2万5000票差)で野党候補が勝利したと伝えられている。与党側は不正があったとして、選挙管理委員会に異議申し立てを行った。

 選挙は全体としてみれば、与党連合の得票率が51.7%と過半数を超え、辛うじて勝利した格好だが、最も重要な2大都市の首長ポストを失ったことが確定すれば、エルドアン氏にとっては手ひどい打撃だ。同氏自身、1994年から同98年までイスタンブール市長だったいきさつもあり、それだけショックは大きい。

 エルドアン氏の敗北の直接の原因は経済の悪化だ。その低迷ぶりは各指標に如実に表れている。インフレ率は20%を超え、失業率も10%に達している。とりわけ若者の失業率は30%と高い。通貨リラも30%近くまで下落、政府は3月、景気後退を宣言せざるを得なかった。こうした状況に国民の日常生活は厳しさを増し、エルドアン政権への不満がうっ積していた。

 大統領は野党をテロリストと罵り、遊説の際、最近のニュージーランドのモスク襲撃テロの動画を公開してまでイスラム教徒の宗教心と愛国心に働き掛け、経済問題から国民の関心を逸らそうとした。だが、この争点そらしの戦術はうまくいかなかった。

 エルドアン氏は2016年のクーデター未遂事件の後、軍や政府諸官庁、警察、裁判所、学校、メディアなどからの反対派の一掃に乗り出し、特に政敵のギュレン師派を徹底弾圧。これまでに5万人を拘束、10万人以上を公職などから追放した。大統領はその強権姿勢を一段と強め、昨年6月には憲法改正で実権型大統領の権力を手に入れ、“独裁者”としての地位を固めた。

米説得を無視

 しかし、選挙の敗北に塩を塗るようにトランプ政権が動いたのは、エルドアン氏の予想を超えるものだったのではないか。米国は1日、トルコに対する最新鋭ステルス戦闘機F35の関連機器の供給を停止したと発表、トルコがロシアから地対空ミサイル「S400」を取得するのは受け入れられないとの強硬姿勢を示した。

 元々トルコは米国との間でF35を100機購入する契約を結び、同機のコックピットなどの一部製造に自身も参加することになっていた。しかし、対米関係が冷却化するにつれてロシアのプーチン大統領に接近、このほどロシアとの間で25億ドルにも上る「S400」の導入契約に調印した。

 この間、米国は北大西洋条約機構(NATO)の同盟国でもあるトルコの説得を重ね、「S400」導入をやめさせようとし、昨年12月には、地対空ミサイル「パトリオット」を新たに引き渡すと提案した。米国が懸念したのは、ロシアの防空システムが導入されれば、F35の機密情報がロシア側に漏洩しかねないからだ。だが、トルコは結果的に米国の警告を無視した。

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