WEDGE REPORT

2019年4月11日

»著者プロフィール
閉じる

樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 3月24日、タイでは2014年のクーデターから5年を経て民政移管のための総選挙が行われた。前回は2011年だったから、じつに8年ぶりとなる。

 この間、選挙権を持ちながらも投票機会のなかった若者は少なくなく、今回の総選挙における初有権者(First Time Voters)は750万人前後を数える。少年から青年への時期、彼らは赤シャツで表象されるタクシン派と国王のシンボルカラーである黄シャツを身に着けた反タクシン派の間で数年に亘って繰り返されてきた激しい街頭抗争を目の当たりにしてきたはずだ。それだけに、今後のタイ政治を占ううえでも、彼らの投票動向が注目されたのである。

iStock / Getty Images Plus / Boontoom

タイの政治が「何でもあり」と言われる所以

 3月24日に投票が行われ、翌25日午後2時には中央選挙管理委員会が選挙結果を発表した。だがあくまでも暫定結果であり、公式結果は5月9日まで明らかにされない。なぜ、こんなにも時間がかかるのか。

 暫定議席数にもかかわらず、プラユット暫定首相の続投を目指す「国家国民の力党」とタクシン派の「タイ貢献党」――2大政党を中心として、下院各党の暫定議席数に応じて連立政権構想が打ち出される。なかには公式結果発表まで動かず、“洞ヶ峠”を決め込む政党もある。

 それだけではない。比例区の議席結果に不満を持ち、比例区選出方法に問題ありとする政党や市民団体からは、憲法裁判所への提訴の動きも出始めた。議席配分が不公平というわけだ。この提訴を憲法裁判所が「是」と判断したなら、これまでの判例からして今次総選挙に無効の判断が下される可能性も否定できない。そうなった場合、3月24日に示された民意は文字通り幻と化してしまう。

 若者の支持を集め第3党に躍り出たと伝えられる「新未来党」のタナトーン党首は4月6日、2015年6月に発生した騒動事件に関わる煽動と被疑者隠匿容疑で警察当局の取り調べを受けている。有罪となった場合、同党首は最悪9年の禁固刑に処されるだけでなく、憲法裁判所が同党に解党を求める可能性すらある。

 加えるに中央選挙管理委員の資質を問い、同委員会の正当性に疑義を呈する市民団体まで現れたのである。

――「何でもあり」と形容されるタイの政治だが、総選挙後のこうした動きを見ただけでも、何とも判り難い。

 日本のメディアでは、今回の選挙を「軍政延長か、民主化か」といった単純な視点で捉えがちだが、この種のステレオタイプな報道では、「微笑みの国」の政治文化の真相は伝わらないどころか、日本人に誤解を与えかねない。

関連記事

新着記事

»もっと見る