2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年10月16日

 9月13-19日号の英エコノミスト誌は、クーデター後のタイについて、軍事政権は「タイ流の民主主義」導入に努めている、と揶揄しつつ報じています。

 すなわち、タイ軍事政権は、仲間内で議会を構成し、やはり仲間内で成る内閣を樹立し、さらに、選挙委員会に、新憲法の起草者の指名を命じるなど、彼らの言う「真の民主主義」確立に力を入れている。

 バンコク市内も平静が保たれ、多くの市民は、軍の介入でインラック政府と反政府派の対立が終わったことに安堵している。しかし、戒厳令は解除されず、2006年のタクシン追放に関わった軍関係者が返り咲いて、副首相、内務相、外相等の要職に就いている。

 専門家の間では、今回の軍政も前回と同様、すぐ終わるというのが一致した見方であり、体制寄りの各新聞も、軍政の期間を1年と報じている。しかし、将軍たちが選挙による民主主義を廃し、「有徳な人々」による長期支配を目指す可能性もなくはない。

 軍事政権の基盤にあるのは厳格な家父長主義であり、そのため、現在、不法就労、密輸、売春、麻薬取引等、非公式経済の一掃が進められているが、将軍たちはタクシン流の人気取り政策を行う必要も感じている。そのため、財政を破綻させかねないコメ補助金政策は維持、予定されていた消費税の引き上げも凍結し、燃料価格も大幅に引き下げた。さらに、富裕な既得権層の擁護者であるにも拘らず、土地税や相続税の導入も検討している。

 軍事政権は、多くの問題に直面している。輸出不振で経済は成長せず、消費も低迷、投資や観光も下降線を辿っている。バンコクの空港はアジアで唯一、利用客が減っている。安定した電力供給、工業基盤、教育を受けた労働力を擁し、ビジネスに最適とされていたタイだが、その魔力の一部が失われていることは否めない。

 タイが今後どうなるかは、プミポン国王の健康にかかるところが大きい。国王が死去すれば、軍事政権は守りの姿勢に追い込まれ、反自由主義が長引く可能性は十分ある。既に、軍事政権は、国王の言う「十分な経済」という考えに飛びつき、生活水準を測る物差しは所得ではなく、幸福だと言っている。

 将軍たちは迷信にも弱い。亡命したタクシンの動きを粉砕しようとしているが、その進め方には慎重だ。裁判所もコメ補助金問題でインラックに有罪判決を下すのを引き延ばしている。軍事政権に自信がつけば、タクシンやインラックへの対処はもっと厳しくなるだろう。


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